今日のエッセイ-たろう

民「俗」自決。「良いね」の共有が集団を作る。 2024年2月3日

継承と変遷。というのが歴史的に見た文化風習の捉え方なのだそうだ。たしか民俗学の本でそのようなことを読んだ気がする。文化や風習の中には、少しずつ変わっていくものがあるのは、食べ物の来歴を見ても分かる通り。時々、社会や環境が変化したことによって、劇的に料理の形や思想が変わってしまうことがある。ただ、劇的にといっても、数十年ほどの時間を要することが多いように感じている。

現代の組織というのは、文化の変化に比べればかなり早く変化が現れる。いろんな要因があるのだろうけれど、最もわかりやすいのは人が入れ替わることだ。企業のトップが変わる。事業の担当者が変わる。決裁権を持つ人が入れ替わるだけで、あっという間に方針が変わってしまう事例を見かけたり体験したことがある人もいるだろう。しっかりとした仕組みがあったとして、運用ルールが決まっていたとしても、やっぱり人が変わると変化が訪れる。

ある意味でそれは仕方がない。人それぞれに考え方が違うのだから、方針もやり方も判断基準すらも変わることがある。まぁ、現場は困るよね。ホントは、判断基準が変わってしまわないように企業理念などが存在しているのだけれど。

文化風習というのは、人の入れ替わりと比べれば強い。そう簡単にブレないような気がするんだ。まさに企業理念を深く理解している人が継承すれば、それは企業文化の継承でもある。明文化していなくても、例えば代々続く商家や料亭のように親から子へ、師匠から弟子へと理念は引き継がれるだろう。

文化というのは、もしかしたら判断基準のようなものなのかもしれない。判断といっても、事業判断のようなものじゃなくて、日常のいろんな考え方や行動の基準のようなもの。美学や美意識と言い換えても良い。

良いね。というのは、よくSNSで見かけるリアクション。英語版だとGoodと表記されるのだけれど、日本語のそれとはちょっとニュアンスが違うような気がする。美しいね。楽しそうだね。良かったね。素敵だね。面白いね。なんだかわからないけれど、とにかく良いね。そんな感じで、いろんな意味を内包しているんじゃないかな。

天気の良い日に丘を登ったら、視界に収まらないほどの景色が目に飛び込んでくる。太陽の光。鳥や虫の声。風にゆらぐ木々の音。どこからともなく立ち上る山の匂い。肌を撫でていく空気の流れ。いろんなものがないまぜになって、なんとも良いなあという言葉くらいしか声にならない。もう言語化することすら諦めて、あぁと簡単することしか出来ない。物事に感じ入って「あぁ」とか「あれ」と言う。本居宣長が言うところの「もののあはれ」である。

こういう感覚は、基本的にはほとんど変わること無く継承されてきている。やまとうたは、その感覚を表現したものだし、それらの片鱗は実に日本文化のいたるところに埋没している。意識しなければ気が付かないほどにね。

そういう、文化的な判断基準のようなものがぼくらの周りにはたくさんあって、地域や集団ごとにカスタマイズされているような感覚。案外、こういうものが地域の生活を支えてきているんじゃないかと思う。だから、世代を越えるほどの長期戦略が機能してきたのじゃないかとね。

今日も読んでくれてありがとうございます。ダセェなぁ。お、いいじゃん。地元の祭りでの青年衆が共有する価値観って、ずっと上の先輩の話を聞いてもあんまり変わらないんだよ。もっとやれ。どんどん挑戦しろ。もっと笑って思いっきり楽しめ。だけど、ダセェ振る舞いだけはするなよ。文化ってどうやって生まれてくるんだろうなぁ。社会が良い方向に向かうための環境って、仕組みも大事だけれど、文化が重要なのじゃないかと思っている。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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