今日のエッセイ-たろう

目に見えにくいモノの価値。 2024年1月18日

都市伝説なのか、真実なのか、よくわからない逸話がある。大抵の場合、逸話というのは誰か有名な人の発した言葉や行動なのだけれど、それが真実ではなくてもあまり害はない。その人物のことを知ろうとするときには邪魔になるのだけれど、教訓として知る分には誰でもいいのだ。

あまり深くは考えずに言うのだけど、なんとなく好きなエピソードがある。巷ではピカソに纏わる話だとされている。

ピカソが街を歩いていると、ある女性に呼び止められた。大ファンなので絵を描いて欲しいという。ささっと30秒ほどで描いたその絵を購入したいと、女性が価格を尋ねたところ、100万ドルだとピカソは答えた。女性はあまりの高額に驚いて、たった30秒の絵がなぜ100万ドルなのかと尋ねたそうだ。ピカソは、この絵は30秒で描いたものではなく、30年と30秒でかかっていると答えたとか。

この話は、いろんなバリエーションがある。ピカソが答えた金額や年数、それから出会った場所も様々。たぶん、これは事実じゃないだろうとは思うのだけれど、けっこう好きなんだよね。作曲家とかも同じだと思うんだ。急にメロディーが降ってきて、5分ほどで出来たなんていう話を耳にしたことがある。ただ、「降ってくる」のは、それまでに積み重ねた研鑽の結果。ということじゃないかな。

機械の調子が悪いとき、素人にはどこが悪いのか判別がつかない。けれども、その道に精通した人なら、どの部品を交換すればよいのかがわかる。優秀であればあるほど、短時間で答えにたどり着く可能性が高くなる。まぁ、あたりまえと言えば当たり前の話。

どういうわけか、世の中の評価の仕組みは「時間」が大きく影響しているらしい。たくさん時間をかけたらエライ、みたいなことになっている。たべものラジオは、けっこうな時間をかけて本を読んだり調べたりして、収録して編集して配信しているのだけど、もっと短時間でもっと高いクオリティにできないものかと思っている。ぼくが、賢ければ賢いほどに調査時間は短くなるはず。本を読んでいても、知らないことが多いから調べなくちゃいけない。そうすると、ちっとも進まないのだ。もっとスラスラと読めるようになったらどれだけ時短になることか。

もちろん、それが出来るようになるためには、学習の時間が必要。もっともっと若い時から取り組んでいれば、今頃はスラスラと本の内容を理解出来るようになっていたかもしれない。結局、いつやるかっていう話で、一定の時間投資が必要であることには変わらないんだな。

人件費が高いのは、その人の生活を支えなくちゃいけないってこともあるけれど、他の人には出来ないことが出来るから。言ってみれば、市場価値が高い。人を商品価値だけで測るのは好きじゃないけれど、基本的にはそういうことなんだよね。

もう少し、不可視の領域にある価値が評価されるような社会だといいな。書籍は紙とインクと糊で出来ているんだけど、モノの原価は安くても本に書かれている内容に価値がある。こうしたものが当たり前に評価されているのだから、もっと幅広く適用できないもんかと思うんだ。

価値を時間で計測するようになったのは、工業を中心とした社会になったというのが影響しているのかな。基本的に、全員が同じ生産能力であるという前提だもんね。どうなんだろう。もしそうなら、誰でも出来る作業をロボットやAIに任せれば良いのかもしれない。どんどん任せていった結果、クリエイターの評価が高まるってことにならないのかな。そういう意味では、今は過渡期になるのかもしれない。これから数十年かけて移行していくのかな。

今日も読んでくれてありがとうございます。稀だけど、ぼくらも言われることがあるんだ。フグが釣れたから捌いて欲しいという依頼をいただいたときなんかね。あんまり仕事が速いと、価格が高いと言われちゃう。仕事が早いっていうのは、研鑽の結果なんだけどね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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