今日のエッセイ-たろう

集約する価値とコストのはなし。2022年10月26日

前日の話をひっくり返すようだが、「目利き」のような機能は課題があると思っている。平たく言ってしまえば、コスト。手間賃もあるけど、そこは問題じゃない。そこはほら、技能に対する報酬だから。もっと別なところでコストが無駄に発生している。言い切ってしまうと、あれなんだが。まぁ、ぼくから見ると無駄に見える。

昨日の例えでは魚屋が登場した。町の魚屋でもいいし、市場の場内にある魚屋でもいいし、卸業者でも良い。本来の意味で機能しているのであれば、彼らは商流の前後の最適化を担っているはずだ。ある種のマッチングサービスを行っているとも言える。良い商品もそうでない商品も、それぞれに見合った適正価格で取引ができるのも彼らのおかげでもあるはずだ。

余談だけれど、良い商品をより安くっていう言葉が好きではない。正しい意味で、良い商品をより安く提供するために技術や運用を進化させるのは良い。正当な進化をするのであれば、材料の生産現場が疲弊するようなことはないはずだから。けれども、ほとんどの場合では「より安く売る」ために、商流の誰かがその価格を負担している。多くの場合、材料の生産現場にそのしわ寄せがくる。結局低賃金労働の上に成り立っているのだ。そんな仕組みだから、現場では自然環境に配慮する余裕などない。最終的なしわ寄せは、自然環境にまで至っている。

「より良い商品をより安く」はいったい誰のためなんだろう。結局のところ、より安くするのは「もっと売れるため」だ。もっと売れれば、もっと儲かる。というインセンティブが働いているようにも見える。どうなんだろうな。

話を元に戻そう。フグの水揚げは圧倒的に下関が多い。南風泊市場だね。日本唯一のフグ専門の魚市場。ここに持っていけば、ちゃんと目利きが機能して分配が行われる。なにせ、数が多いからね。この品質のフグならば、どこそこの料亭が欲しがるだろう。こっちのフグは、どこそこの居酒屋に向いている。これは食品加工の会社が欲しがりそうだな。とまぁ、そんな具合に振り分けされるわけだ。だから、ミスマッチングが少なくなて、売り手も買い手もハッピーなはず。

ただ、一方で落とし穴がある。遠いのだ。例えば静岡県や愛知県沖で漁獲されたフグを山口県まで運ぶには、それなりに時間も労力もかかる。もちろんエネルギーコストも余剰発生する。だから、その分だけ売値にも上乗せされるわけだ。このコストとのバランスが問題になる。

ぼくにとってはフグが身近なので例え話に取り上げてしまったのだけれど、これが悪いと言うつもりはないよ。同じ構造は世界中のあちこちに見れらていて、一定以上の効果を発揮しているんだ。ヨーロッパで作られるチョコレートの原料、チョコレートパウダーはオランダで目利きが行われている。だからこそ、世界中で安定した品質のチョコレートが展開されているわけだし。良い面も大きい。

考えなくちゃいけないのは、エネルギーコストだと思うんだよね。とにかく輸送距離が長くなりがちだから。シンプルな話をしてしまえば、静岡県沖で捕れたフグは下関に運ばずにうちで購入したい。輸送時間もコストもその方が安いんだから、ぼくらも上乗せせずに販売できるよね。輸送コストが販売価格に上乗せされるのだけれど、その分の利益はどこに行くのだろうかということを考えるとさ。ほら、結局は石油産出国に日本円が流れることになるでしょう。もちろんそればっかりじゃないだろうし、それを職業として生活している人がいるのは事実だけどさ。これだけエネルギーの枯渇が心配されている世の中で、なるべく不要なエネルギーは削減したいじゃない。

どっかの本で見かけたのだけれどね。GDPを上げたいのならば、遠くのものを購入しなくちゃいけない仕組みにすれば良いっていうんだよ。県内産の野菜ではなくて、あえて隣の県の野菜を購入する。フォーラムで講師を呼ぶならなるべく遠くから呼ぶ。そうすれば、移動にコストが発生するから。人を呼ぶ場合なら、接待が発生するかもしれないよね。そういうのも含めて経済効果がある。地産地消の逆をやれば良い。そういう話。

今日も読んでくれてありがとうございます。現在の経済の指標がそうなんだよね。お金の流通量だけを計りがち。そうじゃなくて、不要な移動を避けた上で、経済をどのように組み立てるかを考えなくちゃいけない時代なんだろうなあ。あ、でも旅行は別かな。現地にいかなくちゃ感じられないこともあるからね。だけど、エネルギー問題は尽きないよなあ。ふうむ。こんな短い思考でどうにかなる問題じゃないか。

タグ

考察 (300) 思考 (226) 食文化 (222) 学び (169) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (105) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 言葉 (9) 循環 (8) 価値観 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) エンターテイメント (4) 自由 (4) 味覚 (4) 言語 (4) 盛り付け (4) ポッドキャスト (4) 食のパーソナライゼーション (4) 食糧問題 (4) 文化財 (4) 学習 (4) バランス (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) イノベーション (4) 伝承と変遷 (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) チームワーク (3) 感情 (3) 作法 (3) おいしさ (3) 研究 (3) 行政 (3) 話し方 (3) 情報 (3) 温暖化 (3) セールス (3) マナー (3) 効率化 (3) トーク (3) (3) 民主化 (3) 会話 (3) 産業革命 (3) 魔改造 (3) 自然 (3) チーム (3) 修行 (3) メディア (3) 民俗学 (3) AI (3) 感覚 (3) 変遷 (3) 慣習 (3) エンタメ (3) ごみ問題 (3) 食品衛生 (3) 変化の時代 (3) 和食 (3) 栄養 (3) 認知 (3) 人文知 (3) プレゼンテーション (3) アート (3) 味噌汁 (3) ルール (3) 代替肉 (3) パーソナライゼーション (3) (3) ハレとケ (3) 健康 (3) テクノロジー (3) 身体性 (3) 外食産業 (3) ビジネスモデル (2) メタ認知 (2) 料亭 (2) 工夫 (2) (2) フレームワーク (2) 婚礼 (2) 誕生前夜 (2) 俯瞰 (2) 夏休み (2) 水資源 (2) 明治維新 (2) (2) 山林 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 科学 (2) 読書 (2) 共感 (2) 外食 (2) キュレーション (2) 人類学 (2) SKS (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 思い出 (2) 接待 (2) AI (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) 伝え方 (2) 旅行 (2) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) 心理 (2) 才能 (2) 農業 (2) 身体知 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 合意形成 (2) 儀礼 (2) (2) ビジネススキル (2) ロングテールニーズ (2) 気候 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 食料流通 (2) 食材 (2) 流通 (2) 食品ロス (2) フードロス (2) 事業 (2) 習慣化 (2) 産業構造 (2) アイデンティティ (2) 文化伝承 (2) サスティナブル (2) 食料保存 (2) 社会変化 (2) 思考実験 (2) 五感 (2) SF (2) 報徳 (2) 地域 (2) ガラパゴス化 (2) 郷土 (2) 発想 (2) ビジョン (2) オフ会 (2) 産業 (2) 物価 (2) 常識 (2) 行動 (2) 電気 (2) 日本酒 (1) 補助金 (1) 食のタブー (1) 幸福感 (1) 江戸 (1) 哲学 (1) SDG's (1) SDGs (1) 弁当 (1) パラダイムシフト (1) 季節感 (1) 行事食 (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

-今日のエッセイ-たろう
-, , ,