今日のエッセイ-たろう

よく聞くけど「チームワーク」とはなんだろう?職場のコミュニケーション。 2023年6月14日

あまり多くの調理場の仕事風景を見たことがあるわけじゃないけれど、ホテルなどの大きな調理場は比較的業務が分担されているように思う。少なくとも、ぼくが個人的に見たことのある職場はそうだった。板前、煮方、鍋脇、焼き、揚げ、追い回しなど、それぞれに持ち場が決まっている。

板前とか花板と呼ばれる人は、カウンターの前で刺し身を担当している。煮方は名前の通り煮物など、鍋を使った加熱調理の専門家だ。料理としての煮物を扱うだけでなく、他の担当の下茹でなども行うことがある。焼き場、揚場というのも名前の通りだ。焼く専門に、揚げる専門。鍋脇などのように、脇とつくのはサポート役。煮物や刺し身を盛り付けるのも仕事だけれど、それ以外に皿を準備したり下ごしらえの剥きものをしたり、あれこれと細かなサポートをひたすらこなしていく。

大人数で調理を行うことのメリットは多い。細かな手仕事も、人数がいればこそ分担してこなすことができる。多くのお客様を相手にしていても、適切なタイミングで料理を提供することができる。専業化しているからこそ、それぞれの業務や技に精通していて、クオリティを高めることができる。世界中の高級店の多くは、こうしたチームを形成しているらしい。トップシェフや親方は、料理のプロフェッショナルであると言うだけでなく、監督として存在している。むしろ、調理技術が最高ではなかったとしても、最高のチームと最高の料理というイメージや理論がしっかりしていることのほうが重要なのかもしれない。

調理場という職場だけのことではないけれど、仕事とはチームワークで成立するものだ。というのが持論である。どこか、チームスポーツに似ているのではないかとも思う。

うちの店のように、少人数でカバーし合いながら仕事をしている職場も少なくないだろう。一組あたり20人前後の宴会を5〜6人でこなす。ホールも調理場も会計も含めて、この人数である。最近はこうしたケースはほとんどないけれど、パンデミック以前の繁忙期はだいたいそんな感じだった。

オーバーワーク、ブラック企業。そう見えるかもしれない。一時間あたりこなす仕事量は、確実に多いように思う。直前までの準備が終わると、いよいよ試合開始という雰囲気が漂うのは、やはりサッカーの試合直前のロッカールームに似ていると感じている。

サッカーの試合に例えると、どうすれば効率的に動くことができるかが見えてくる。常に考えるのは、「もしアイツだったら、今オレにはどこにいて欲しい?」である。サッカーではなくても、バスケットボールでもなんでも良い。自分の行動と周囲のチームメイトの行動を見る視野の広さ。そして、同時に頭をフル回転させて、次の瞬間の行動を決めていくのだ。

人数が多くても少なくても同じことだと思う。ぼくが追い回しのときには、周囲にいる先輩たちの動きを常に視界の片隅に入れておくことを意識していた。鍋などの調理器具を洗うのも下っ端の仕事なのだけれど、洗い物をしているときはどうしても調理場に背を向けることなってしまう。だから、耳を傾け定期的に顔を上げて振り返るようにしていた。安い時計を買ってきて壁に貼り付けたこともある。1秒でも早く洗い物を終わらせるためだ。

上司や先輩に指示をされる前に、行動を先読みして動く。声をかけられたときには、既にそこにいる。声をかけようとしたときには、必要なものが揃えて置かれている。そういうことを意識していると、気がつくと同じことが自分に対しても行われていることに気がつく。むろん、それは相手にもよるのだけれど、良いチームとはそういうものじゃないだろうか。

結果として、誰もが最小の労力と時間で最大限のパフォーマンスを発揮する事ができる。というのが理想のチームだ。理想は理想であって、実現するのが実に難しい。人間というのは、つい「自分のテリトリー」に引きこもりがちである。自分のやるべきことはやりきったのだから、相手もやるべきだ。という気持ちは分かる。各々が任された仕事をしっかりとやり切ることで、初めてチームが駆動するのは事実だ。けれども、それを更に有機的に駆動させるためには、プラスアルファの連携が必要になる。場合によっては、ポジションにこだわっている場合ではない。

たとえ力不足でも、鍋脇をしていた先輩が他のフォローをしている間に、下っ端のぼくが穴埋めに動いても良い。もちろん、先輩のように動くことはできない。それでも、いないよりは良いこともあるのだから。

突発的に動いたときには、褒められたし、同時に力不足を感じてへこんだし、説教された記憶がある。上司によっては余計なことはするなと言われたこともある。だけど、忙しくないときや仕事じゃない時間に話をするだけで解決することもあった。あのときはどう動くのが良かったのか。直接聞くんだ。もっとお互いに良い動き方があったんじゃないかって、考える。わからないときは教えてもらう。案外、それだけで解決することもある。今度からコーチングするよ。それだけで職場は変わったこともある。

今日も読んでくれてありがとうございます。これを組織化してルールに基づいて運用している会社があるという。多能工というらしい。トヨタで理論化されて実装されたそれは、星野リゾートグループでも用いられているのだそうだ。ビジネスで、と考えると難しかったり思いつかなかったりするんだけど、実はスポーツの世界では随分と前から「当たり前」だったということもあるんだよね。実装するためにはリーダーや監督の力、メンバーの意識が全部揃わないと厳しいのかな。必要な要素ってなんだろうね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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