今日のエッセイ-たろう

30年前の今頃、学校を休んで家族旅行に出掛けることにして炎上した話。 2023年5月11日

「みんなと同じ様に休んでおいて、更に休もうっていうの?」

小学5年生の頃だから、かれこれ30年以上も前の話。ゴールデンウィークが終わってから、来週3日間学校を休む旨を担任の先生に伝えた。クラス中に響き渡る大声で彼女に言われたのが冒頭のセリフだ。

「みんな聞こえた?一人だけ追加で休むんだってさ~」

当時既に退職間近の先生だったから、ご存命なら米寿を越えていることだろう。

まだ小学生だったぼくは、思いっきり凹むと同時に、持てる知力を総動員して徹底的に反発したことを覚えている。平日に学校を休むのであれば、その分は一人だけでも学校に来て授業を受けるべきだ。と言われたので、その場でスケジュールを組んで、以降の日曜日と放課後に欠席する分の授業を受けられるように依頼した。が、なぜ一人のためにそんなことをしなくてはならないのか。とおっしゃる。たった今、そうしろと言ったのだから、それに従ったまでのことだ。

授業を休むことで、学力が下がるのは良くないと言われた。ただ、それまでの期間に行われたテストは全て満点である。なにか問題でもあるのか。と言うと、黙ってしまった。まったく憎たらしいと一言添えられたけど。

どうやら、根底にある意識の差が大きいのだと思う。みんなが勉強という嫌なことを行っている間に遊んでいるのが不公平だという感覚だろうか。ぼくも、ぼくの家族もそのような感覚は全く無かった。知らないことを学ぶことは楽しいし、家族で旅行に出かけることでしか得られない体験も学びだと思っていた。そのような環境で育ったのだ。

それに、社会全体が一斉に同じスケジュールで動くことなどあり得ないということは、体験上知っていた。だから、学校に通うことを均等に行わなければいけないという先生の意見には、理解が追いつかなかったのだろう。

我が家は、ぼくが生まれる以前から両親が飲食店を営んでいた。だから、世間の皆さんが休んでいる間には働き、みなさんが働いている間に休むというのが通常だ。それでなんとなく、世間の皆さまと労働時間のバランスが取れているのだと思った。

そもそも、小学生の頃は「学び」を苦しいと思ったことなど無い。しんどいなと感じるようになったのは、もっともっと先のこと。知らないことを知って「わかった!」とひらめく感覚は楽しい。だから、授業は嫌いじゃない。できれば、つまらないことを繰り返さないで、もっと新たな発見がいっぱいあれば良いとは思っていたけれど、それは読書や実験でカバーしたから特に気にならなかった。

なにより、面白かったのは旅行だ。当時、漫画の影響で「城」や「城跡」にハマっていた。両親もそれを知っていたから、旅行先はそうした場所を中心にしてくれていた。行ってみると、学校の授業では感じられない迫力や、細かな城づくりの工夫などを「感じる」事が出来る。なんとなく、学校の授業で聞いていた内容が、現物に触れることで「わかった」というような瞬間に変わることがある。とにかく、それが面白かった。

旅行先で出会う様々なモノゴトは、それ単体でも楽しかったし、聞いたことのある内容とリンクするのも楽しかった。新たな疑問が生まれて、資料館の係員さんに聞いたり、両親に訪ねたり、帰ってきてから調べたり、先生に聞いてみたりする。そういった一連の行為が楽しかったのだ。

で、こうした「体験」を重視する考え方は我が家の方針である。両親はもちろんだけれど、祖父母がそうだった。特に、祖母は「机上の学問」と「体験の学び」の両方をつなぎ合わせることを大切にするように言っていた。日常で小さな疑問が生まれて、祖母に尋ねると「じゃあ、まずはやってみな」、その次は「調べてみな」と言われる。報告すると「じゃあ、こんなやり方だとどうなるのかね」と、すっとぼけた口調で質問される。体験をつなぎ合わせていくと、そのうちに何処かのタイミングで「気づく」瞬間がやってくる。そのときになって、書籍で調べたことが自分の身になって返ってくる。

現代の言葉に変換すると、コーチングのようだ。ティーチングではなくてコーチング。質問やヒアリングを繰り返して、ところどころにヒントを置く。なんとかして、自分で気がつくように仕向ける。そういうのが、我が家の方針なのか、祖母の方針なのか。

今はわからなくても、そのうち言っていることがわかる時が来るよ。という言葉は、いろんな場面で色んな人から聞いた。そして、以前言われたことのある言葉はこういうことだったのか、という気付きの瞬間もたくさんあった。本質的にわかるためには、それに見合った体験の蓄積と知性が組み合わさる必要があるということだろう。

小学生の頃のぼくは、これをうまく言語化出来なかったし、そもそも体験が少なくて説得力がなかったのだろう。ひたすら先生との問答が続いて、最終的に校長室に呼び出された。校長先生からは、行き先を尋ねられ、何に興味を持っているのかを尋ねられた。そして、帰ってきたら気づいたことや学んだことを報告しに来なさいと言われたのだった。

今日も読んでくれてありがとうございます。もう30年も前の話だからね。今の小学校でこんなやりとりは無いだろう。ただ、それはそれでどうなのかと思うのだけど。というのも、波風を立てないようにするだけだとすると、こうした深掘りをすることもなさそうだしね。小学生だって、適切に疑問を提示したらめっちゃ考えるんだ。そういう意味で、とてもよい機会になったと思っているよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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