今日のエッセイ-たろう

ウナギのこと。環境のこと。ちゃんと知っておこう。 2024年7月30日

普段うなぎを食べないという人がいる。シンプルに苦手っていう人もいるのだけれど、いろいろ考えてしまうんだよね。だって、うなぎって絶滅の危険度が高いんだもの。このままのペースで食べ続けると、たぶん本当に絶滅してしまう。レッドリストで言えば上から2番目。けっこうやばいのだ。

レッドリスト、つまり絶滅危惧種に指定される生き物は、大きく分けて2つのパターンがある。そもそも個体数が圧倒的に少ない場合。それから、数はいるけれど現象のスピードがやたらと早い場合。ニホンウナギは後者。ウナギが繁殖して増えるスピードよりも、減少するスピードのほうが圧倒的に速いのだ。その理由は色々あるけれど、やっぱり人間が原因の大半を占めているのは間違いない。

ウナギを食べる量が増えたことはまちがない。日常的に食べる魚と違って、そこそこ高級魚であるからサバやイワシのような消費量ではない。ただ、そもそも人口が増えている。ぼくらの世代より若い人たちは日本の人口が1億人以上いるのが当たり前だと思っているけれど、そんなわけない。昭和20年でおよそ7200万人。ここからざっくり5000万人も増加しているのだ。5000万人といえば、お隣の韓国の人口である。つまり国ひとつ分増えている。

ウナギの繁殖スピードも悪くなっている。ウナギって海で生まれて川で成長するわけだけど、水門があったり水質の問題があったりして、なかなか川を遡上できないってこともある。で、しょうがないから養殖するわけだけど、まだ完全養殖出来るようにはなっていない。まだ、うなぎの生態についてはほとんどわかっていないのだ。

レプトセファルスと呼ばれるウナギの稚魚を獲ってきて、それを水槽で育てるのだ。たくさん育てれば儲かるわけだから、なるべくたくさん稚魚を仕入れたい。たくさん稚魚を捕獲してしまえば、稚魚を生むはずの成体が少なくなってしまう。すると次世代の個体数が減り、その次の世代の個体数が減り、と悪循環である。そのくせ、不正も起きている。密輸、密漁、無許可、無報告。一説には、国内で流通しているウナギの半数以上がこれらに関連しているらしい。

こんなことを知ってしまうと、ウナギを食べることをためらってしまう。そう、だからウナギを食べないという人が一定数いるのだ。ウナギを食べる人がたくさんいる。需要があるから高くても売れる。だから、稚魚をたくさん仕入れたい。仕入れたい人がいるから稚魚を捕獲する人がいる。本当は規制がかかっているのだけれど、そんなことはお構いなしという人はいつの時代も一定数存在しているものだ。歴史を見れば明らかなこと。もっときちんと法整備をして、国際協力のもと保全活動につなげなくちゃいけないわけだけど、それが出来ていない。だから、せめて消費者の不買運動で影響を与えられないかっていう話だ。

個人的には、「全く食べない」とまではしなくて良いんじゃないかと思っている。人間の欲って、うまく機能すれば原動力になるから。旨いものはずっと食べられるようにしておきたいでしょう。誰一人としてウナギを食べない時代が訪れたとして、それが世代を超えるくらい時間が立つと、ウナギが旨いってことすらも忘れ去られるかもしれない。それはそれでウナギの生態は守られるかもしれないけれど、ウェルビーングってそういうことじゃないような気がしているんだ。これはあくまでも個人の考え方なので、良し悪しではないよ。それぞれに考えたら良いと思う。

市場原理としては、ウナギが高価なままでいれば良いと思うんだ。そしたら、簡単に食べられなくなる。儲けようとすると、人気商品を大量に作って売ろうとするひとが現れる。だけど、そのサイクルに拍車がかかって起きたのが1929年のアメリカ金融危機でしょう。一定、高いままで留めておければ良いんじゃないかな。まぁ、完全な自由経済ではないけれどね。少しは手を入れたほうが良いと思うんだよ。どうかな。

今日も読んでいただきありがとうございます。土用の丑の日ってのは、江戸時代のセールスコピーだと言われている。だから、今でもその日になると消費量が爆発的に増加するわけだ。これはこれで負荷がかかっているのだろう。一方で、ウナギにまつわる話題がメディアで取り上げられることが多くなって、こうした問題が世に知られるきっかけにもなっているんだよね。土用の丑の日っていう機会を、うまく使えば良いんじゃないかと思っているよ。

あ、8月5日も土用の丑の日ね。だから、もう一度「掛茶料理むとう、ウナギ&おろしそば定食30年ぶりの復刻」をやるよ。食べて感じて、そのあとゆっくり考えよう。フィールファースト、ラーンレイター。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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