今日のエッセイ-たろう

マイノリティー食材の見せ方を考える。 2024年11月27日

少し前にご来店されたお客様に鴨鍋をお出ししたところ、一人の方が少し顔を曇らせたように見えた。「どうかされましたか?」「いえ、なんでもありません」

あまり詳しくお話を伺うことが出来なかったのだが、どうやら鴨肉が苦手だったようだ。けれども、鴨鍋も、その後にお作りした鴨出汁の雑炊もきれいに召し上がった。おそらく、「鴨肉が苦手だったけれど、改めて食べてみたら臭みも感じなかったし柔らかくて美味しかった」ということらしい。よくある話である。

家族から、鴨肉を使うときは苦手な人が多いので少量にするなどの工夫をしたほうが良いと言われたので、気になってネット上の鴨肉に対するイメージを調べてみた。そして驚いた。評価がまっぷたつなのだ。なかには、ゲテモノの一歩手前という表現すらあって、笑ってしまったのだけれど、そういう感覚の人もそれなりにいるらしいのだ。

らしい。と表現したのは、日本料理では鴨肉は定番の食材だからである。うなぎやスッポンと同じ様にメジャーで人気の高い食材。だからこそ「鴨が葱を背負って来る」という慣用句があるのだろうと思っている。蕎麦屋にいけば鴨南蛮もあるし、治部煮という定番料理もある。まさかゲテモノのジャンルに近い存在だと感じている人がいるとは思わなかった。どちらかというと、うなぎやスッポンのほうがよほどゲテモノ感がある気がする。

苦手な理由はいくつか思いつくのだけれど、まずは味だろう。「獣臭くて硬い」という人が多いようだ。たしかに、ぼくもそういう鴨肉に出会うことがあって、肉質ももう少し良いものにして欲しいと思うし、下ごしらえをちゃんとやってほしいと思うことがある。品質が悪いのか、保存方法が悪いのか、古くなって脂質が変質しているのか、ドリップを抜く作業をしていないのか。

こういうのを当たり前だと思っていると、鴨肉自体を嫌いになってしまうかもしれない。だけど、それってもったいない。例えば、日本人の誰かが海外で傲慢な振る舞いをしていたからと言って、その他の1億人もの日本人を嫌いだというようなものだから。実際、来店されたお客様ははっきりと美味しかったと言っていたし、余すことなく召し上がっていった。もし、少しでも苦手の克服につながったのなら良かったと思う。

普段からよく鴨肉を食べるという人は、おそらく少ない。というか、スーパーマーケットで見かけたことがあっただろうか。その程度に馴染みが薄い。そういう食材は、知名度はあっても認知度が低く、クオリティの差異が理解されにくいのかもしれない。

その点で行くとフグは高級で美味しいらしいというイメージがあるので、まだ恵まれた存在だろう。けれども、食べたことがないという人も多く、トラフグではないフグが存在していることもあまり知られていない。そのせいか、通販や加工食品の中には誤認しやすい商品がある。イメージ写真やイラストは明らかにトラフグなのだけれど、トラフグが使われているのはごく一部で、大半は別の種類のフグだったりするのだ。最近見つけたのはフグのかまぼこ。ほとんどが鱈のすり身で、少しだけサバフグのすり身が使われていて、ほんの少しトラフグの皮が種として混ざっている。でパッケージのイラストはトラフグなのだ。

伝統的な食材だけど、メインストリームから外れた食材。新しく登場した食材。これらは、なかなか難しい状況だということなのだろう。食に対して感度の高い方ならば、はじめての食材でも、かつて美味しいと思えなかった食材でも、またチャレンジしてみようと思うのだろうけれど、そういう人ばかりではない。むしろ、多い気がしている。

料理店や惣菜店などは、ある意味で広告塔となって食文化の発信拠点となっている。メインストリームではない食材だけで商売を成り立たせるのは難しいだろうけれど、メニューのひとつに加えておくことはできる。そうした細かな努力が食文化に影響を与えていく。とは断言できないが、飲食店を営むものとしてはそうであって欲しいと思うわけだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。たべものラジオも含めて、テレビやユーチューブなどのいろんなメディアで発信し続けることも必要なんだろうな。食材の選択が進んで収斂していく世界は、どうも危なっかしくてね。一定の多様性は担保しておいたほうが良いと思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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