今日のエッセイ-たろう

それでも人は買い替える。「選ぶ」は現状の是非を考えること。 2025年7月9日

一時期、やたらと服を買っていた時期がある。なにかのストレスなのかもしれないけれど、同じようなものをあれこれと買っていた。白シャツだけでも何枚もあるし、革ジャンだって20着近い。ストールもいくつもあるし、ジャケットも20着以上ある。ジーンズでいっぱいになったタンスを見ると、ため息が出る。ファッションのことがわからなすぎて、どんなものが自分にあうのか、しっくりくるまで色々と試したのだろう。こういうところに探究心が発揮されると、財布はどんどん軽くなっていく。独身だったからこそ出来たことではある。

何かを買うとか買い替えるというとき、それは新しい何かを選んでいるようでいて、実は現状へのNoでもあると思う。バリエーションを増やしたいという気持ちもあるけれど、革ジャンばっかり買い集めたのは、それまでに持っていた革ジャンに満足していなかったからかもしれない。本当に気に入った一着があれば、それを愛用すればいいのだ。実際、いくつかのアイテムは使われずにタンスの肥やしになっている。傷まないように手入れだけをしているのだが、これは何のためにやっていることなのか、自分でも理解に苦しむ。

例えば、車を買い替えるとする。洋服などとは違って、車は大きな買い物だ。買い替えの理由は人それぞれだけど、例えば古くなっていて車検のタイミングで乗り換えるという人もいるだろう。または、故障しやすくなったとか、事故で破損したということもあるだろう。

乗り換えるか、それとも修理して乗り続けるか。という最初の選択肢がある。基本的に現状に不満がなく、むしろ満足しているとか愛着があれば、乗り続けるかもしれない。買い替えるのならば、それはどこかに現状への不満が潜んでいるのだと思う。

そんなことはない。新しい車のほうが素敵だったからだ。と言うかもしれないが、新しい車のほうが素敵だと思うこと自体が、相対的に現状の否定に繋がっていると言えるのじゃないだろうか。あっちのほうが良さそうだっていうのも、緩い「現状の否定」なのだ。同時進行で新たなアイテムの選択をしているので気づきにくいが、ステップがあるのだ。現状の否定があって、その次のステップに選択肢がある。で、メーカーを選んだり、ボディタイプを選んだりしながら、個別の車種を選択していく。そんなもんだろうと思う。

ちょっと拡大解釈すると、選挙みたいな大きな選択もそうだろうと思う。現状の政治に対する是非が問われるのがファーストステップ。この段階で、是とするならば政権与党に投票すれば良い。非ならば、他の政党を選ぶ。マルバツで選んで矢印を辿っていくようなアンケートがあるけれど、これに似たイメージかな。もし、何の選択もしない場合は、現状を是認したことになる。車で言えば、そのまま乗り続けるということだ。何もしなければそうなるよね。乗り換えるのならば、じゃあどれにする?って考えるでしょう。

車とか家などの大きな買い物は、支払うコストが大きい。大きいからこそ、買い替えにはストレスがかかるし、その分だけ現状維持のちからが強くなる。なんというのが良いのかな。買えるためにはパワーが必要なんだ。良いものが見つけられなければ、まぁ現状のままで良いかということになる。

それでも、チャンスがやってきたり、現状の否定の意志が強くなれば、渋々ながらも行動することになる。だって、車が破損してしまったらどうしようもないじゃない。田舎なんて、車がないと生活が大変なんだから。家が倒壊しかかっていたら、危なくてしょうがない。お金が足りなくても、いろいろと方法を考えるでしょう。

最近は、あまり服を買わなくなった。それは、現状に満足しているからだ。そもそも着る機会も少ないし、今持っている洋服はそれぞれに愛着がある。数もあるから、バリエーションにも困らないしね。気になるのは体重の増加とともに緩やかに崩れる体型の方かな。もうどうにも切ることが出来ない服もあって、こればかりはどうしようもない。今、手元にあるスーツは礼服の他には一着のみ。着る機会がとても少ないので困りはしないのだけれど、もし頻繁にスーツを着るような生活になったら新調しなくちゃいけない。つまり、状況が変われば満足していたはずの現状も、不満に変わるわけだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。買い物と選挙を一緒にするなと言われちゃうかな。だけど、選び直すって、基本的に現状の是非を問うところから始まると思うんだよね。それは会社の経営にしてもそうだし、サービス設計とかもそう。選挙も近いからね。選ぶってどういうことかを考えてみましたよ、と。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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