今日のエッセイ-たろう

食品添加物は毒なのか?パラケルススとホットケーキミックス。 2025年8月19日

食品添加物は体に悪い。という人がいる。けれども、それは原理的におかしいのだ。食品添加物は「科学的に安全性が確認されたもの」でなければ、食品添加物という名称を使うことが出来ないから。一応、ぼくも科学信者なので、「科学なんて嘘だ!」とか言われたら困っちゃうんだけど。

毒かどうかは量が決める

さて、一方で食品添加物が体に悪い影響を与える可能性があることは事実だ。食品添加物だけじゃなく、あらゆるものは体に悪い。砂糖も塩も水も酸素も、トマトもナスも豆腐も、なにもかもだ。
「全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるかそうでないかを決めるのだ」と言ったのは、パラケルスス。16世紀のドイツ地方にいた医師で、後に毒性学の父と呼ばれた人物だ。

毒かどうかを決めるのは量である――ここまではおそらく同意してもらえるだろう。ところが、この先になると、なぜか反論が飛び交う場面に出くわすことがある。

毒は蓄積するのか

よくあるのは、「摂取したものは蓄積する」という考え方。これは半分あっていて半分間違っている。長期間にわたって本格的に蓄積するものもあるけれど、一時的に蓄積するけれど徐々に排出されるものも多いのだ。

身体の中に鉄の塊でも差し込んだら、手術で取り除かない限りずっとある。体に入れたら最後、専門的な治療をしなければ排出できない物。これが長期にわたって本格的に蓄積するもの。

一方で、ちょっとずつ分解されて排出されるもの。例えば、小さな穴の空いたバケツに水を注ぐとしよう。チョロチョロと少しずつ注ぎ込む分には、水が貯まることはなく排出される。ところが、大量に注ぎ込めばしばらくのあいだは貯められることになる。
少量の酒ならばほとんど害がないのは、ドンドン分解されて毒性がなくなっていくからだ。チョロチョロと少しずつ注ぎ込むのに似ている。ところが分解能力を超えたアルコール量を飲めば、全部を分解して排出するまでには相当の時間がかかる。その間に、身体のあちこちに影響が出るというわけだ。

実は、猛毒で知られるフグ毒ですら、原理は変わらない。ただ、毒性が強いのであっという間にバケツに溜まってしまうのだ。フグ毒は呼吸を止めてしまうから、排出されるまでの間人工的に呼吸を行い続ければ、次第に回復することも知られている。

世の中のものはたいてい毒だけれど、その強さはいろいろ。物質によって毒になる量が違うっていうことだ。

社会情勢が変われば

食品添加物として古くから使われているものはたくさんある。例えば、豆腐の凝固剤として使われるのは塩化マグネシウムや硫酸カルシウム。化学名だとピンとこないけれど、にがりと焼石膏だ。
ミョウバンも定番の添加物。ナスやキュウリなどの漬物では鮮やかな色を保つために使われてきたし、ワラビやゼンマイのアク抜きにも使われてきた。麦加工食品ではコシを出すために使われるし、いくらやウニの保存料でもある。ほとんど無害に近いほどに毒性は弱く、昔から“ちょこっと”使う程度だったから気にする人はいなかった。

2018年、ベーキングパウダーにおける「硫酸カリウムアルミニウム」の使用量が制限された。硫酸カリウムアルミニウムとは、ミョウバンの成分のことだ。漬物などでは昔から必要最小限に留めるようにとは言われていたものの、特に使用量制限はない。同じ成分なのに、なぜ使用量制限に違いがあるのか。

実は当時、ホットケーキミックスなどを使った家庭菓子や料理が大流行していたのだ。その結果ベーキングパウダーの消費量が激増したのである。一方で、漬物は消費量が下がるばかり。一人あたりの硫酸カリウムアルミニウムの平均摂取量を考えれば、どこに制限をかけるべきかは明らかである。ということで、国が対策を講じたのだ。
これをもって「ミョウバンは毒だ」というのは早計に過ぎる。大量消費をするから影響が出る可能性が高まったという程度に過ぎない。ミョウバンの成分の中で毒性があるのはアルミニウムなのだけれど、一週間に摂取しても問題ないとされている量は“体重1kgあたり1mg”。体重60kgならば60mg。実物を見たらわかるけれど、「こんなに?」と思うほどの迫力がある。ましてや、色止めに使う程度の漬物に含まれる程度ならば、考慮するに値しない。

なんでもそうだけど、食べ過ぎは体に良くないのである。わかりきった話だけれど、同じ食材だけで考えると思わぬ落とし穴にハマることもある。茄子の漬物とホットケーキミックスが「アルミニウムの毒性」でつながっているなんて、意識したこともなかった。

全ての成分を把握するなんてことは、日常生活では無理に近い。だから、気に入ったものだけを食べ続けるっていうのはリスクになるんだろうな。対策はシンプル。ありきたりだけど「バランスよく食べよう」ってことになるのである。

今日も読んでいただきありがとうございます。ビールをたくさん飲んだら、次は日本酒に切り替えれば大丈夫だろう…ってことにはならないのだよ。アルコールという毒性でつながっているからね。店を変えたから大丈夫?そんなわけない。
笑い話みたいでしょ。お酒だと思うとそうなんだけど、「食に関する偏った信仰」ってだいたい、同じような笑い話だったりするんだよ。「◯◯はダメだ!」と声高に叫ぶ人も、だいたいは頓珍漢なことをしているものさ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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