今日のエッセイ-たろう

言葉遊びと食文化。2022年11月1日

日本料理には、ダジャレというか言葉遊びがとても多い。日本料理という言葉を使うと、なんだかフォーマルな様式のように感じてしまうけれど、もっと身近な存在なんだろうな。日本人にとって、普段の食生活の中にはたくさんのダジャレみたいなものや、言葉遊びが含まれている。でもって、あんまり違和感なく生活しているのだから面白い。

刺し身のことをお造りということがある。これは験担ぎだろうね。ホントなら「魚肉の切り身」なんだ。けれども、切るとか刺すっていうのは「殺生」をイメージして印象が良くないってことで、造り身。包丁師が魚の身から作り出した料理という意味合いを強くしている感じかな。

スルメのことを「あたりめ」なんて言い換えもするよね。スルという言葉は、どうにも銭をスルようで縁起が悪い。クジで銭をスルよりも当たる方がいいじゃねぇかって発想だから、どこか江戸っ子の言葉遊びのような印象がある。昭和の時代には、勝負と後の前日には「カツ丼」を食べるという習慣が生まれたよね。勝負にカツという験担ぎ。

どうも、日本人というのは古い時代から言葉遊びのようなことが好きみたいだ。好きというか、文化だろうね。

正月に飾る鏡餅を食べるときには「鏡開き」という。丸い餅を鏡に見立てるのはまだいいとして、切るのでも割るのでもなく開くという。こうした言い回しは、かなり古い時代から有るようだ。同様にして、喜ぶに掛けて昆布、めでたいという意味で鯛を珍重してきた。他にも勝栗の栗とかね。

近世以降になると、料理書を読むのも苦労することが有る。当て字やら言葉遊びが増えてくるのだ。メジャーどころだと、御造里。「り」なんか送り仮名なんだから、ひらがなでいいじゃん。そもそも、漢文だったら送り仮名など無いのだから「造」の一文字でも良さそうなもんだ。

言い換えも苦労するよ。有りの実なんて、知らなくちゃわからないんじゃないかな。果物の梨のことだ。献立表を書いたときに「水菓子:なし」と書くと、デザートは無いよっていう意味に見えるからだって聞いたことがあるんだけどね。これも縁起が良いとか悪いとかの話だろうと想像している。そもそも、献立を書き出してお客様に見せるようになったのはずいぶんと新しい文化のハズなんだよね。19世紀から20世紀にかけて誕生したもの。献立というのは、厨房における指示書だったり、後の参考のための記録書だったりする。史跡の建造物、生花、アート、なんでも良いけれど裏方の指示書を見せることって無いでしょう。映画の台本を公開しているようなもんだからね。というのが、元々なんだけどさ。

職人同士の遊びだった部分もあるかもしれない。吉野、丸十、有馬、利休、十三里。これ、全部食材のことなんだけど、わかるかな。吉野といえば葛。丸十は薩摩藩島津家の旗印のこと。転じてさつまいも。有馬は山椒。利休は千利休のことなのだけれど、ゴマを用いた料理を得意としたことからゴマを意味するようになった。それから、十三里もさつまいもだね。その甘さが栗に匹敵するか、超えるほどだっていうことで「栗よりウマイ」となり「九里四里うまい」と遊んで、足し算して十三里。こんなの知らなくちゃ絶対にわからないよ。

店の看板に用いられるケースも多かったみたい。そう考えると職人同士だけの遊びというわけでもないのか。言葉遊びを粋だねぇと面白がる風潮があったんだろうね。寿司という文字は、ウケ狙いのスシ屋の看板が最初。いまでは、寿司が正式な文字表現みたいになっているけれど、そんなもんじゃないんだ。昭和の暴走族が壁に「夜露死苦」とか書いていたのと大差ない。どっちも予測変換で候補に上がるんだから、ずいぶんと浸透したもんだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。ちょっと真面目な話をすると、こういった言葉を使った遊び。言い換えだったり、縁起の悪いものは避けるという思想は、万葉集の時代にはすでに定着していた。いわゆる言霊思想だね。言霊が真実かどうかはさておき、長く信じられてきたことだし、日本語はこの思想をベースに作られていると言われている。面白いよね。いつか、ちゃんと勉強してみようかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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