今日のエッセイ-たろう

心の健康と食のはなし。2022年12月2日

ワールドカップと店の仕事に意識がむいてしまっていて、面白いくらいに調べ物が進まない。人間のパフォーマンスというか、知力体力のインジケーターはどこかに集中すると、他に回す余力がなくなるものなのかな。寝不足の頭ではあるのだけれど、今朝はスッキリと冴えている。日本がスペインに勝ったからね。直接個人の生活には関係ないのだけれど、嬉しいものは嬉しいのだ。冷静に考えると、人間の体や意識というのは不思議なものだ。

健康というと、どうしても体のことばかりに意識が向く。それは、昨今の健康ブームを見ていてもよく分かる。本屋さんに行って棚を眺めれば、糖質や脂質、メタボ、睡眠、疲れない、ダイエットというキーワードばかりが目立つ。食産業の広告も主にはそれ。体に良いものを食べましょう。これを食べれば血糖値が下がるとか、太りにくいとか、そういう話ばかり。

そりゃそうなんだ。間違いなく体が資本。体が弱っていたら、思考もまとまらないし自由に動き回ることも制限されてしまうわけだから。

でも、そればかりじゃないってこと。冒頭にも書いたように、今日のぼくはコンディションが良い。体力だけで言えば、確実に疲労があるはずだ。昨夜も仕事が終わったのは12時近かったし、このところ休日もまともに休息が出来ていないくらい。そのくらいに仕事や用事が立て込んでいるのだ。それでも、今朝は4時前に起きて、ワールドカップ日本対スペインの試合を見た。サッカー大好きの静岡県民としては、これは外せない。

気分が良いと、頭も回るし、意識もポジティブになる。この後、店のご予約もあるので、これを書き上げたら早々に厨房へ行く。

毎日、こんな生活をしていたら駄目になっちゃうんだろうけどね。体には確実に疲労が蓄積しているはずだから。その場合は、とにかく寝ることだ。何かを食べるのも大事だけれど、何なら食べることを諦めてでも寝るしか無い。

ただ、時々で良いから、精神に働きかけるポジティブなことを体験するのは大切なんだと思う。改めてぼくなんかが言わなくても、みんなわかっているんだろうけれど。頭でわかっていることを体験すると、実感が深くなるよね。今朝は、まさにその状態だ。

先日、伝統とはなにかについて対談をしていたときに、こんなことを聞いた。伝統を因数分解すると、文明と文化に分けられる。ホントはもっと細かく因数分解出来るんだけど、大きく分けると文明と文化の2つになるんじゃないかって。確かにそのとおりかもしれない。

文明というのは、テクノロジーや知恵のことを指している。科学的に分析ができるようになった。新しい技術で、革新的な装置が発明された。新しい手法を編み出した。近年の科学的なアプローチもそうだし、包丁が進化したとか、漆の蒔絵が発明されたとか、絹ごし豆腐の作り方を発明したとか、ニギリズシを発明したとかも文明だと言える。

これに対して、文化は精神のこと。心のありようだ。どの様な思考をするのかという傾向でもある。わび茶や民藝運動では、受け手の心の有り様を説いた。と解釈できる。思想そのものは、似ていて非なるものだけれどね。何を美しいと感じるのかは、感じる人に委ねられているというのだ。

わび茶の侘びでは、ありふれた景色や寂れた情景を、美しいと感じられるかどうかに軸足が置かれている。もしかしたら、それを美しいと感じる人の心を美しいと捉えているのかもしれない。民藝運動でも、美しいものを作り出そうとするのではなくて、数多の職人が良いものを作ることだけに集中特化したら、偶発的に飛び抜けた美が生まれることがあって、それを見つけ出すことこそが美だとしている。こうした感覚は、おそらく日本特有の美意識になっているのかもしれない。もちろん、他の国にもあるのだけれど、特に日本では古い時代からこの傾向が強い。と感じている。

心の健康という言葉にまとめると、どことなくチープな感じがしてしまうのだけれど、深く捉え直すととても重要なことなんだと思うんだ。美しいもの、楽しいこと、美味しいものなどに直接触れることは、心の健康にとてもよい働きをしてくれる。歌を聞くのだっていいし、自分で歌うのだって良い。サッカーをするのもいいし、サッカーを観戦するのでも良い。それにのめり込むことで、心にポッと明るい光が差し込んだようになる。

今日も読んでくれてありがとうございます。料理をするのでもいいし、料理を食べるのでも良い。とっても身近なことだから、手を出しやすいと思うんだよね。ちょっとだけ、人に語れるくらいにのめり込んでみると、それだけで豊かな気持ちになって、心が元気になれるんじゃないかと。そういうところにアプローチすることと、資本経済がうまく噛み合うと良いよなあ。今のところ、うまく噛み合ったビジネスってそうそう見当たらないから。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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