今日のエッセイ-たろう

食料獲得にかかる労働時間の短縮化現象。 2024年2月21日

食料の獲得は、人類の永遠の課題だ。人間に限らず動物全般にとって重要なことだろう。ぼくらが遺伝子の乗り物だとしても、自我を持った主体だろうと、食料がなければ生命を維持することも出来ないし、子孫へつなぐことも出来ない。

食料は、どうにかして獲得しなければならない。植物のように足元の土から得られる栄養や天から降り注ぐ水だけを当てにすることは出来ない。動き回るっていうのはそういうことなんじゃないだろうか。生きることと、子孫を遺すこと。そのためにはエネルギーが必要で、だから食料の獲得という労働には、なるべくなら時間もエネルギーもかけたくないっていうことになる。よくわからないけれど、他の生物を見ているとそんな気がするのだ。

そういえば、太古の昔の原初の人類は植物しか食べていなかったらしい。まぁ、ゴリラやチンパンジーから分かれたばかりの頃はそうだろう。たまには肉も食べたかもしれないけれど、ほとんど果実。野生の猿がそうだからね。似たようなもんだろう。

食物の有りようが大きく変わった氷期ど真ん中。樹木が減って草原が増える。果実よりも草を食べる動物のほうが有利。だから草食動物が繁殖して、草食動物を食べる肉食動物も増える。寒い時代を生き残ったのは、肉食っていうトレンドに乗った人類だった。

食料の獲得っていうのと、それを食べる時間というのを合わせると、なんだか少し減っているように見える。きっと果実だけで食料を賄っていた時代は、けっこうたくさん食べなくちゃいけなかっただろう。ひとつの食料が保有する栄養が少なければ少ないほど、大量に食べなければならないし時間がかかる。パンダなんかは、寝てる以外は竹や笹を食べているのだ。もともと肉食なんだから肉を食べればいいのに、彼らは草食だというのだから不思議だ。

火を使った調理が始まったのは明確になっていない。が、150万年前の遺跡からは火を使ったようなこんせきがあるし、79万年前から69万年前には、確実に火を使っていたという証拠がイスラエルの遺跡にある。ホモ・サピエンスが登場するよりもずっと前のこと。

火の利用が始まると、調理時間もさることながら食事の時間が圧倒的に短くなる。消化するためのエネルギーもかなり少なくなるわけだ。消化しやすくなった食事こそが、人類の発展に最も貢献したんじゃないかって言われるくらいの大発明。ぼちぼち石器も登場してきて、狩猟採集も効率化してきているころだ。

ある研究によると、狩猟採集民の食料獲得にかかる労働時間は成人男性で2時間程度だそうだ。他の時間は全て余暇である。現代社会で、一日の労働時間が2時間などということがあるだろうか。

注目したいのは、私達現代人の労働が食料獲得のためのものなのだろうか、という問いだ。働いて銭を獲得しなければ食料を得ることが出来ない。そういう意味では食料獲得と言えなくもない。けれども、多くの都市型生活を送る人々は、直接食料を獲得しているわけじゃない。食料を獲得した人たちから分けてもらっているのだ。

農耕牧畜の社会では、食料獲得にかかる時間は狩猟採集生活よりもずっと長い。とにかく手間がかかる。でも時間をかけたくない。そんなジレンマからか、それとも食料分配の仕組み上仕方がなかったのか。とにかく、特定の人が食料を獲得して、特定の人はそれを受け取るという分業社会になった。かつては、それが権力構造によって成立してたわけだけれど、現代では経済の論理で成り立っているだけのことだ。

こうして「食料の獲得」だけに焦点を当ててみると、ヒトというのはとにかく時間や労力をかけたくないのだろうなと思えてくる。食料獲得にかかる総時間数を人口で割ってみたら、狩猟採集時代よりも短くなっているかもしれないよ。いっときは、農耕社会という時間よりも安定を選択したのだけれど、現代は逆転したかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。ちょっとおっかないことを思いついてしまったんだけどね。「食料の獲得にかかる時間」と「食料の安定供給」ってトレードオフの関係ってことはないかな。だとしたら、現代ってけっこう無茶しているってことになっちゃうんだけど。どうなんだろう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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