今日のエッセイ-たろう

世界で初めてふぐを食べた人。ってスゴイの? 2023年5月22日

最初に「ふぐ」を食べた人ってスゴイよね。という話を聞くことがある。ふぐに限らず、毒のあるものやグロテスクなものは、その対象となることがある。なのだけれど、よくよく考えたら、そんなにスゴイことなのだろうかという気がしてきた。まぁ、ひねくれ者の発想かもしれない。

ふぐを始めた食べた人類がどんな存在だったのかはわからない。とりあえず判明しているのは、千葉県にある縄文時代の遺跡でフグ毒で中毒死したらしい家族の遺体が発掘されていることだ。少なくとも、その時代にフグが食べられたことは間違いない。

フグを食べ始めたのは古代のことだ。となると、まだ人類の数も少ないが食料も豊富と思うかもしれない。いや、そうでもない。なにしろ、縄文時代の日本は天然の食料の宝庫。わざわざめんどくさくて効率の悪い「農業」などというものをやる意味が見いだせないほどだ。山に入れば木の実やキノコ、山菜などがいつでも手に入るし、海に出れば魚も貝も自由に取ることが出来た。どれだけ食べても枯渇することのない食料庫だ。その代わりに、天然の食料庫が生産できる量と獲得することが出来る量には上限が有るので、結果として集落が拡大することはない。

さて、このような状況だとしたら、食料になりそうなものは一通り食料にしてみるのが自然な行動のように思える。フグも、海の恵のひとつだろう。

古代のフグがどのような生態だったのかはわからない。もしかしたら、現在のフグとは種類が異なるかもしれないし、毒性についても異なる可能性がある。わからないけれど、現在のトラフグと似たようなものだとして考えてみよう。

トラフグは、主に卵巣にテトロドトキシンという毒物を蓄積する。キモと呼ばれる肝臓も毒性を持つ場合があるのだけれど、それは確率論。30~40%の有毒率だ。だとすると、である。一つの集落の中で複数のグループがふぐ鍋を食べたとしたら、中毒死に至るのは1グループかそこらだろう。他のグループは無毒フグかもしれない。もっと言ってしまえば、内蔵を食べなかったかもしれない。

というのも、フグに限らず、魚の内蔵は中毒を引き起こしやすい部位である。寄生虫や細菌は内蔵部分にある。基本的に鮮度が高い魚を食していたのかもしれないけれど、冷蔵庫もない時代のことだ。まっさきに傷むのは内蔵なのだ。魚のサイズによっては、内蔵を除去して食べるくらいのことはしていただろう。

縄文人のルーツは、狩猟採集の「海の民」という説がある。陸を主体として海に出るという感覚ではなく、海を中心にしていて陸に滞在するという感覚だったという。だから、環境の変化に応じて海沿いに移住するらしい。

であるならば、だ。海の民には海の幸に関する知恵があっただろう。一口に縄文時代と言うけれど、その期間は数千年。まだ西暦2000年なのだということを考えると、縄文時代やその前の新石器時代がいかに長いかわかる。その間、海や山と向き合って暮らしてきたのだから、それらに関する知見は無いという方が無理がある。

フグを食べた人がスゴイという意味では、2番目以降の人だ。特に、フグの内蔵に毒があるとわかっていながら内蔵を食べた人。もっとスゴイと思うのは、皮やヒレを珍味として食べ始めた人たちである。トラフグならば皮に毒性はないけれど、日本近海のフグには皮に毒がある種類も多い。判別ができたのだろうか。

内蔵を食べた人たちは、もしかしたら能天気なだけかもしれない。今どきフグの内蔵を食べる人は少数になったけれど、ほんの数十年前までは当たり前に存在した。「毒があるのは知っているけれど、私は当たるわけない。そんなに頻繁にあることじゃないんだし。」という感覚なのだろう。

自動車免許の更新に行くと、交通安全の啓蒙を目的とした動画を見ることになる。そこで語られるのは、蒸気と全く同じことだ。自分だけは大丈夫だろう。なぞの自信がある。だから、事故に遭遇した時に「なぜ私が?」と驚く人が実際にいるのだそうだ。地震も火事も、大抵のことはそんな感覚で捉えられるのだろう。フグに毒があるのがわかっていても食べるのは、そんな感覚。

トゲがついていて、それを除去しなければまともに食べられない皮。しかも、身ほどには旨味が強いわけでもない。食べないという選択肢は十分にあったはずだ。まぁ、誰かがチャレンジしたんだろうなあ。

今日も読んでくれてありがとうございます。グロテスクなものの場合は、それがグロテスクだと感じているのが自分だけだと思ったほうが良いかもね。現代人の感性だからってはなし。犬や猫を食べるって言うと、気持ち悪いって言う人がほとんどだと思うんだ。だけど、世界中で食用の家畜だった歴史のほうが圧倒的に長い。もちろん日本も。ウニや牡蠣を食べるのを見て気持ち悪いって言う人もいるんだよ。魚の生肉なんて人が食べるものじゃないとか。そういうの、世界中に有るじゃない。だったら、歴史を遡った時にも同じことが言えるんじゃないかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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