今日のエッセイ-たろう

歌枕と魔改造。膨大な量の果てにたどり着いた日本の独自性という質。 2023年7月4日

日本は魔改造文化だと言われている。日本発祥のものは少ないけれど、海外から取り入れたものを魔改造し続ける。その結果、原型がわからないほどに魔改造が施され、それは日本独自のものに昇華される。そして、日本発祥の文化と認識されるのだ。

魔改造文化はどこの世界にもある。たべものラジオで世界の食文化を知ることでそう思うようになった。一方で、日本ほど変化を遂げる文化も少ないことも知った。

料理や食材には、人名や地名が用いられることがある。唐辛子やトウモロコシ、ジャガイモなどのように、その物自体の名前になることもあるし、二つ名を与えられることもある。ごま豆腐は利休豆腐、山椒煮は有馬煮といった具合だ。いつしか、こうした名前と魔改造文化はどこかで繋がっているのかもしれないと思うようになった。

二つ名は、関わりの深い固有名詞が与えられている。これは、歌枕のようにも感じられる。その名を聞くことで、思いを馳せるからだ。胡麻豆腐を作る時には、千利休が好んだのだことに思いを馳せることがある。禅宗と茶懐石と茶の湯。ぼんやりとだが、風景が浮かぶようだ。

歌枕と言えば、奥の細道が思い出される。ぼくにとっては、これが一番わかりやすい。松尾芭蕉は、尊敬する西行の500回忌に合わせて、歌枕を巡る度に出たという。西行が和歌を読んだ地を自らの足で辿る。そして、彼の地で西行に思いを馳せながら、自分なりに歌を読んだのである。

先人が作り上げたものを愛しむ。そして、私も自分なりの解釈を加えて作ってみる。旅がそうであるように、創作もまた「なぞる」ことなのかもしれない。解釈の違いは、創作物に現れる。似ているけれど違うものになることもあれば、ガラリと違ったものに変容することもある。日本のアートは、そうした小さな差異の積み重ねによって、最初のものとはかけ離れたものへと変容したのかもしれない。

自分なりの解釈。ほんのちょっとの工夫。それが大きな差異を作り出すには、多くの創作が必要になる。生き物が遺伝子によって進化する時、世代交代の回数が多いほどに変化が早くなる。同じ様に、膨大な数の創作が生み出されたのだろうと思う。それは、全く新しいものを作り出したのではなく、前の世代のものを踏襲しながら少しだけ変わるといった類のものが大半だろうと思う。

和歌は長歌や短歌などの多くのバリエーションが存在した。それがいつしか定型化されたが、一方で俳諧の上の句というものが登場する。狂歌や川柳など、それまでの和歌の美麗な景色から抜け出したものもある。明治になった頃には俳句が成立し、破調はやがてどこまで許容されるのかわからないほどに変化したという。

どこまでも美しさや便利さを求め続ける求道者のような姿勢。これ以上進歩しようがないと思うと、さらに細かな部分まで改良を加え続ける。それも極限まで達したかと思うと、そこから変化を始める。途中から、遊びになる。そうして遊びに昇華されたものが「道」という名を与えられるのかもしれない。現代風に言い換えれば、道を作り出した多くの先人達はみなオタクである。

今日も読んでくれてありがとうございます。量質転化の法則という言葉がある。漫然と量をこなしても何者にもならないのだけれど、本気のオタクが世代を超えて積み上げた絶対的な量は、独自文化まで押し上げる要因になったんじゃないかと思うんだ。それは、先人への経緯と自分なりの美を重ね合わせ続けた先に到達する境地なんだろうな。魔改造っておもしろい。

タグ

考察 (305) 思考 (228) 食文化 (225) 学び (171) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (106) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 伝統 (15) 遊び (15) 食産業 (14) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) ビジネス (10) 美意識 (10) たべものラジオ (10) デザイン (10) 言葉 (10) エコシステム (9) 社会構造 (8) 循環 (8) 組織 (8) 価値観 (8) ガストロノミー (8) 日本料理 (8) 視点 (8) マーケティング (8) 仕組み (8) 仕事 (7) 日本らしさ (7) 構造 (7) 営業 (7) 妄想 (7) 社会課題 (7) 飲食店 (7) 多様性 (6) 認識 (6) 観察 (6) レシピ (6) 教育 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 組織論 (6) 持続可能性 (6) 落語 (5) 働き方 (5) 体験 (5) 挑戦 (5) 構造理解 (5) スピーチ (5) イメージ (5) 伝える (5) 食料問題 (5) 掛川 (5) 解釈 (5) 未来 (5) 成長 (5) 味覚 (4) 自由 (4) 言語 (4) 文化財 (4) 食のパーソナライゼーション (4) ポッドキャスト (4) 食糧問題 (4) 学習 (4) 作法 (4) バランス (4) エンターテイメント (4) 盛り付け (4) サービス (4) 食料 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) イノベーション (4) 語り部 (4) 誤読 (4) AI (4) 食品産業 (4) 土壌 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 食の価値 (4) 伝承と変遷 (4) 技術 (4) 健康 (3) 食品衛生 (3) 研究 (3) マナー (3) 感情 (3) 民主化 (3) (3) 温暖化 (3) セールス (3) 産業革命 (3) プレゼンテーション (3) 変化の時代 (3) チームワーク (3) 効率化 (3) 会話 (3) 話し方 (3) 和食 (3) 行政 (3) 読書 (3) 情報 (3) トーク (3) メディア (3) (3) 身体性 (3) 社会変化 (3) テクノロジー (3) 慣習 (3) 変遷 (3) ハレとケ (3) 認知 (3) 感覚 (3) 栄養 (3) 魔改造 (3) 自然 (3) チーム (3) 修行 (3) 民俗学 (3) 伝え方 (3) 代替肉 (3) ルール (3) 外食産業 (3) ごみ問題 (3) 料理人 (3) 味噌汁 (3) パーソナライゼーション (3) アート (3) おいしさ (3) 人文知 (3) エンタメ (3) 科学 (2) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) 水資源 (2) 家庭料理 (2) 生物 (2) 衣食住 (2) AI (2) メタ認知 (2) 料亭 (2) 夏休み (2) ロングテールニーズ (2) (2) 山林 (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 誕生前夜 (2) フレームワーク (2) (2) 婚礼 (2) SKS (2) 飲食業界 (2) 思い出 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 芸術 (2) 明治維新 (2) 俯瞰 (2) 才能 (2) ビジョン (2) 物価 (2) フードロス (2) 事業 (2) 工夫 (2) ビジネスモデル (2) 創造性 (2) 心理 (2) 接待 (2) 人類学 (2) キュレーション (2) 外食 (2) 茶の湯 (2) SDG's (2) 旅行 (2) 共感 (2) 流通 (2) (2) 身体知 (2) サスティナブル (2) サスティナビリティ (2) 産業 (2) オフ会 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 発想 (2) 地域経済 (2) 食料流通 (2) 常識 (2) 伝承 (2) ビジネススキル (2) (2) 気候 (2) 儀礼 (2) 食料保存 (2) 合意形成 (2) 電気 (2) 言語化 (2) 行動 (2) 文化伝承 (2) 産業構造 (2) 思考実験 (2) 地域 (2) 食品ロス (2) 食材 (2) ガラパゴス化 (2) 郷土 (2) SF (2) 農業 (2) 五感 (2) 報徳 (2) 習慣化 (2) アイデンティティ (2) 哲学 (1) 補助金 (1) 食のタブー (1) 江戸 (1) 幸福感 (1) SDGs (1) 行事食 (1) パラダイムシフト (1) 季節感 (1) 日本酒 (1) 弁当 (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

-今日のエッセイ-たろう
-, , , ,