今日のエッセイ-たろう

観光インフラと無料送迎サービス。 2023年9月5日

地方都市で、ある程度の規模を持つ飲食店や宿泊施設はマイクロバスを所有していることが多い。うちは、数年前にやめてしまったのだけれど、駅や自宅までマイクロバスで迎えに行くのだ。

なぜ、こうしたサービスが存在しているかと言うと、シンプルに売上のためである。駅から離れたところに立地していると、ふらりと飛び込みで来客があるという確率は低い。だから、一生懸命にチラシなどで広告を行い、送迎サービスがあることで利便性を謳ったのだ。そういう時代があって、それが今でもしっかりと残っているという話。

正直な話、法事などで多くの人が来店してくれて、その大半がお酒を楽しんでくれることを期待していた。20年ほどの伝票を見ると成果が出ていたことがわかる。法事で20人ほどの来客があると、瓶ビールは最低でも1ケース以上売れた。この時点で一人あたり1本は飲んでいる計算だ。さらに、日本酒や焼酎などが売れていたのだから、それなりに酒類による売上があったことがわかる。自家用車で移動するとなると、そういうわけにはいかないだろうけれど、送迎があれば安心だ。お互いにウィンウィンだと言えるだろう。

ところが、ある時から酒類の売上が無くなってしまった。10年ほど前の伝票を見ると、20人の集まりでもビールは5本程度。その後も少しばかりの酒類が売れているに過ぎない。これでは、わざわざ自宅まで車を出した意味がないということになる。

お寺に迎えに来てほしいということで伺った所、そこに数台の車が駐車してあった。その車の所有者もマイクロバスに乗り込むのだが、法事の食事会のあとはお寺から車に乗って自宅まで帰るのだそうだ。ならば、その車で来店すれば良いではないか。高速道路を利用するのであれば、そのお寺よりもずっと当店のほうが乗り口に近い。

飲食店の送迎サービスは、なぜかタクシーの用に使われていたことがある。無料であるからなのか、それとも親族が一緒に移動できることが嬉しいのかわからない。自宅に迎えに行って、お寺へ連れていき、その後に墓参りに付き合って、それから店まで連れて行く。

なんとも不思議なことのようにぼくには思えた。

現在の法律では、この行為に対して課金することは禁じられている。白タク扱いになるのだ。無料であっても、グレーゾーンだということになるらしい。

お客様にそうしたニーズがあることは理解ができる。決して変なことを求めているわけじゃないと思うんだ。実際に、有料でもいいから車を出してほしいという声は今でもある。けれども、課金することは法律違反になるので、当店としてはサービスすることが出来ない。なぜなら、もうウィンウィンの関係ではないからだ。

よくよく考えてほしい。料理やそれに関連する料金は、それらに対する価格設定だ。そこには、他の商品代金はもちろん、コストも反映されていない。ガソリン代もマイクロバスの維持費も運転手の人件費も含まれないのだ。だから、別のサービスを求めるのであればそれなりのコストが発生する。そのコストを支払ってでもサービスを求める人がいるからビジネスとして成立する。とてもシンプルな話である。

ここまでは、半分ほど愚痴。ただ、観光産業としては真剣に考えなくてはいけないことである。いま、日本中の交通手段は不足しているのだ。都会に住んでいる人にはピンとこないかも知れないけれど、駅から郊外までの移動手段は田舎に行けば行くほど不足している。駅についたは良いけれど、タクシーが一台もいないという地域だってあるのだ。

2019年には訪日外国人の数が3000万人を突破していた。いかに観光地に集中したとしても、日本の人口に比べればわずかなものである。ヴェネツィアなどは6万人程度の街であるが、年間数万人の観光客が訪れているのだ。そこまでいけば、観光公害ということにもなるかもしれないけれど、京都のような場所でもヴェネツィアほとの問題は起こり得ないはず。にも関わらず、課題になっているのは「インフラが整っていない」からだろう。

だから、タクシー代わりに飲食店や宿泊施設が使われてしまうのだ。本当に、必要なのであればマイクロバスの送迎を行っている事業者には、課金する許可を与える仕組みを整えるべきではないだろうか。それが、地域の交流インフラの一端を担うことになるかも知れない。

今日も読んでくれてありがとうございます。うちはだいぶ前に送迎サービスを見直したのだけれど、まだ続けていて、それが足かせになっているという飲食店の話を聞くことがあるんだよね。無料であることで、本来のサービスを圧迫しちゃったらしょうがないじゃない。と思うんだけど。なかなか、ね。難しいよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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