今日のエッセイ-たろう

食と社会構造の関わりってどうなってんのかな? 2022年7月18日

農業革命、産業革命、IT革命。政治的な革命を含めても、この3つよりも影響力の大きい革命はないかもしれない。もちろん、人権という概念を獲得するきっかけになったフランス革命みたいなものもあるし、明治維新もアジア近代の大きな革命。なのだけれど、前述の3つは、その影響力が長大で絶大だと思うんだ。

農業も産業もITも、それぞれに経済活動の中心が変わったときのように見えるんだ。メチャクチャ時間軸が長いから、単純な比較はできないし、一本の線上に表すことも出来ないんだけどね。

まず最初に、農業が確立して、それがどんどん進歩していく。何回も変革を繰り返して生産力を向上させていった。これがさ。ホントは初期の頃は、農業生産力が一番高い人が儲かっていたはずだよね。実際に体を動かしている人じゃないかもしれないけれど、農業経営者が最も儲かっていて、力もあった。極端なことを言ってしまえば、各時代のいろんな国の支配者は、広義の意味で農業経営者と言えなくもない。領民の食料事情を常に考えながら、領国の経営をしてきているわけだからね。日本だって、長いことそういう経済活動をしてきたわけだ。

これが、途中から変わってくる。イギリスから始まった産業革命は、世界的に大きな影響をもたらした。だけど、それ以前に経済構造は変わってきているんだよね。むしろ、その緩やかな変革はイギリスは出遅れたくらいだし。

日本人にとってわかりやすいのは、江戸時代なんだろうな。廻船問屋とか、染物屋とか、酒屋とか、直接農業経営をしていない人たちが勃興してくるよね。これに対して、かつての荘園主だった領主は徐々に経済的に落ち込んでいく。ほとんどの藩は借金だらけだったもんね。儲かる産業が、農業じゃないこと、つまりモノづくりとかサービスに移行しているんじゃないかな。これ。

そのうちに、なんだかよくわからない職業が登場するようになる。行政書士とか弁護士とか、コンサルタントとか。よくわからないっていうのは、それまでの社会では理解されないような職業ってことね。そして、こういうのが徐々に、もっと儲かる職業になっていくんだよね。

異論もあるだろうし、例外だってたくさんあるのは重々承知のうえで、言っちゃうけれど。「儲かる商売」が徐々に「生きるためのモノゴト」から離れていっているような感覚があるんだ。それは、ぼくらのやっている会席料理店もそうなんだよね。生きるためというよりも、楽しみのためだったり儀式のためだったりするじゃない。正直な話、世の中から料亭が消えてなくなっても、生きるためには影響はない。文化的には寂しいけれど、不要不急のお出かけ先のひとつなんだよね。日本では全然儲からないんだけどさ。

この大きな流れが不思議に思えてきちゃったんだよ。だってさ。どの産業も大事ではあるけれど、農業が一番大事なわけでしょ。いま、瞬間的に消えてなくなったら最も困る職業よね。現代社会ではインターネットインフラが消滅したら大変なことにはなる。だけど、一次産業が消滅することのインパクトに比べたらマシなんじゃないかな。そのくらいに農水産業は命に直結していると思うんだよね。

命に直結するほど大事な職業は、その収入が高い職業である。ということのほうが、なんとなくスッキリするんだけど、どうなんだろう。もし、世界中の一次産業の人たちが結託して、ストライキを起こしたら?最大の権力を持つのは農家ってことになる。あり得ないし、極論すぎるけどさ。

なのに、なぜ一次産業に従事する人の収入が低いのだろう。この社会構造は、いったいどういうことなんだろう。いや、歴史を見て学べば、理屈はわかるんだよ。わかるんだけど、やっぱりちょっと納得し難い部分もあってさ。

よくある話だけど。農業の中でも穀物は安いんだよね。米も麦もさ。日本では当てはまらないかもしれないけれど、世界的に見ればとうもろこしもね。主食が一番安いの。一番消費されるのにさ。一番消費されるものが高いと国民の生活は困っちゃうんだけどね。だから、日本でも海外でも主食の農家は国によって守られているわけだ。国家の運営からすると、完全な持ち出しになる。不採算部門。だけど、主食が不足することの怖さは、歴史を見れば明らかだもの。国全体で見たときに赤字だったとしても、それは確保しておかなくちゃいけない。

アメリカやフランスは、この部分ではかなり力を入れている。なにがあっても自国の農産物生産量を確保する。じゃないと、有事の際にどんなことになるか知っているから。普段から余剰生産をして海外出荷するのだ。日本やオランダやイギリスは、逆ね。思い切って、海外依存を戦略としている。振り切っているから、そのぶん外交戦略が重要になるってことか。そうなると、確かに他の産業で稼がなくちゃいけないってことになるね。輸出で儲けたお金で食べ物を買う。そういうことか。だとしたら、一次産業以外の産業が高く売れることは、巡り巡って良いことにもなるのかな。

じゃあ、自国の一次産業はどうなるんだろう。いま、もし日本が鎖国したら。そりゃ農業やっている人が一番強いことになるんだよね。食料の取り合いになるんだから。そのはずだ。えーっと、どうすればいいんだ。競争相手がワールドワイドに広がっていて、国力や政治とのバランスの中で農業経済がある。ここまではわかった。これさ。農家さんの努力だけじゃどうにもならなくないかい。米農家が一所懸命に頑張っても、IT長者みたいに儲かるって無理なんじゃないだろうか。そうなると、水田や畑よりも、もっと儲かる産業に土地利用を変えたくなっちゃうよね。だから、無駄に住宅地が増えているのか。農家でリッチになりたければ、儲かる作物に振り切るよね。時間効率や土地利用効率が最も良い作物に。それが何なのかは知らないけど。

今日も読んでくれてありがとうございます。これ、一朝一夕で掘り返せるジャンルじゃなかったなあ。無限に絡まった社会構造を覗き見ることだった。けど、ちょっと意識して考えるようにしておこう。社会とか世界っていう実態のよくわからないものの中で、命を支えている産業が立ち行かなくなるリスクがあるってことだもんね。奥が深いよなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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