わかりやすいメッセージは、たしかに“わかりやすい”。アタリマエのことを言っている。いわゆるキャッチコピーは、いろんな説明をギュッと縮めた“わかりやすい”メッセージ。でも、「ホントは色々と説明しなくちゃいけないし、それを書くと長文になるんだけど、読まない人がいるから僕らがいるんです。」って、どこかのコピーライターが言っていた。だけど、わかりやすく縮めたことで、正確さは失われる
世の中にはシンプルなメッセージが溢れている。健康。減塩。低脂肪。糖類オフ。他にも、言葉で表されていなくても、商品にプリントされた肝臓の絵柄は、その商品が肝臓に良さそうだと印象付けている。
だけど、食と健康の関係ってそんなにシンプルなものなのかな。
塩分の過剰摂取は高血圧の原因になることがある。糖類だって、食べ過ぎたら肝臓の負担が大きくなるし、糖尿病や脂肪肝にもつながることがある。でも、人類は塩分を取らなかったら神経異常をきたすし、糖類は重要なエネルギー源なのだ。その時の体調によって体に必要な栄養素は変わるだろうし、人それぞれでもある。
以前、料理のご予約を承る時に「糖質を使わないでほしい」という要望をいただいたことがある。が、さすがにそれはできないとお断りした。米も醤油も味噌も、ほとんどの野菜も使えないことになってしまうからね。
それは極端な例だとしても、「塩分控えめにして欲しい。」「油物を避けて欲しい。」と言われることもある。もちろん対応する。もしかしたら医師の指導によるものかもしれないしね。
ただ、「最近健康に気をつけていて〜」とか「外食は塩分が高いから」と言われると、ちょっとモヤモヤする。まず第一に、一般的に会席料理の塩分濃度は高くない。場合によっては「薄い」と叱られることもあるくらいだ。そういうギリギリを攻めるように育ってきちゃったから。もうひとつは、「今日だけ」気にしても意味がないんじゃないかってこと。仮に1日3食だとして、1週間に21食。そのうち、「自分の」健康に配慮した食事をしているのだろう。仮に、1週間のうち1食がかなりしょっぱくて、脂が多くて、糖質過剰で二日酔いになるほど飲んだとして、よほどのことがない限り病気に直結することはないだろう。雑に言ってしまえば、翌日からしばらく節制すればバランスが取れる。
ちょっと脱線してしまったので、話を元に戻そう。
食と健康の関係は、原則として「連続した食習慣」によるもの。それに、運動習慣や生活サイクル、行動量、もって生まれた体質などなど、いろんなことが関係しているはず。あれを止めればOK。これを食べれば大丈夫。というシンプルな話にはならない。だいたい、キャッチコピーやテレビで見聞きする通りに「体に良い物」を全部食べていたら、簡単に過剰摂取になって健康を損ねることだってあり得る。「シンプルメッセージ」は、「こういう効果のある食材だよ」という紹介をしているだけ。つまり、バランスを取るのは自分の役割なのだ。
ちょっと厄介なのが、比較的見えにくい食品添加物の存在。最初に断っておくと、食品添加物イコール体に害のあるものではない。ただ、見えにくいからこそ過剰摂取に気が付きにくいだけ。と、思っている。
例えば、ぶどう糖果糖液糖。これそのものに害はない。果糖は砂糖に比べると甘さを強く感じられることから、大量に投入しなくても良いという特徴がある。結果として、商品単体で見れば糖の摂取量は抑えられる。問題になり得るのは、加工食品を大量に摂取する場合だ。ブドウ糖がいろんな臓器で代謝されるのに対して、果糖は肝臓でのみ行われる。連続して果糖が送り込まれると、肝臓の負担が大きくなって、脂肪肝の原因になりやすいのだ。
大事なことなので繰り返すけど、果糖そのものは悪い食材ではない。普通にフルーツに含まれている天然の甘味料。問題なのは、量と吸収の早さ。飲み物は吸収が早いので、一気に肝臓の負担が高まってしまう。運動量の多い人なら全く問題ないのだけど、日頃から運動不足を指摘されている人だと処理しきれないことになる。
ここまでの話を簡単にまとめると、こんな感じになる。
キャッチコピーは嘘ではない。が、すべてを語っているわけでもない。
ちゃんと読めば、バランスが大切だと分かる。けれども、わかったとしても実践するのは面倒だし、大抵の人は読まない。
でも
ちゃんと理解して、自分でバランスを取ろう。
とはならない。
いや、最初はそう思っていたし、今でもそんなに大きく意見が変わったわけじゃない。ただね。キャッチコピーも商品開発も、ちょっとはポジションを変えたら良いと思うんだ。たぶん、関係者はみんな消費者の行動なんてわかっているはず。わかっているけれど、それは消費者の選択だし、競合他社との食事バランスなんて考えようと思っていない。というように見える。消費者を甘やかし過ぎと思うかもしれないけれど、もう少し配慮してあげてもいい。もう少しメッセージを強く打ち出したらいい。
極端でわかりやすい、つまり強いメッセージは沢山の人に届きやすい。でも、ホントに体に良いコトって案外滋味でアタリマエに聞こえることが多い。さあ、どうする?前者は、そろそろ消費者も気がついてきているよ。だって、それぞれの商品が別のアピールをしているんだもの。どれを食べればいいかわからないじゃない。そしたら、「健康を謳った食品は基本的に信用できない」ってことになってくる。いわゆる「何を信じていいかわからない」という状態。
さあ、どうしましょうね。
今日も読んでいただきありがとうございます。こういうことに正面から向き合おうと思うと、結構大変だと思う。一時的には売上が落ちるかもしれないしね。だけど、長期視点で考えたら、やっぱり大事なこと。そういう視点を得るためにも、人文社会科学って有効なんだよね。