今日のエッセイ-たろう

「何を考えるべきか」を考える。 2024年7月10日

しばらく前に「イシューからはじめよ」という本が流行したのだけれど、このタイトルは「先ず隗より始めよ」をもじったものだろうか。解ではなく、何を問題として考えるべきか、つまり課題設定から始めよう。隗を解に置き換えているのだとしたら、気の利いたタイトルだと思った。

何を課題として考えるかを設定することが大切だというのは、アインシュタインも言っていたような気がするな。ぼんやりとした記憶だけど。

以前の職場で、解約抑止の業務にあたっていたことがある。携帯通信事業者なので、毎月の回線使用料が売上の大半を占めるわけだ。もちろん、デバイスの売上もあるけれど、やはり毎月の利用者が多いことが利益を生むというビジネスモデル。だから、解約されてしまわないようにするのも大切な仕事だ。

解約する。というのは、なかなか面倒な作業である。当時ならばカスタマーセンターに電話をして、解約書類を取り寄せて、それに必要事項を記入して返送する。仕事が終わって自宅についた頃にはカスタマーセンターの営業時間を越えていることも多い。日中に時間を作って電話をしてみても、自動ガイダンスという障壁が待っている。じっくり聞いて、どの番号を押せばよいのかを判断するのも面倒だ。解約希望の番号を押した後に聞こえるガイダンスは「ただいま混み合っております。しばらくお待ち下さい」だ。やっとのことでオペレーターに繋がると、そこでは解約されまいとする「切り返しトーク」が待っている。

事業者側からすると、オペレーターに繋がる前までの行程は、効率化や人件費を考えて作り上げられた仕組みだ。解約抑止は、それとは別に切り離されて行われる活動と見なす。が、利用者から見れば「解約しにくいようにしている」としか見えない。

これは、イシューが「解約率を下げる」だから起きることなのかもしれない。いわゆる水際対策。当初、ぼくが与えられた任務もこれだった。こちらからお客様に電話をして、契約更新を促すのだ。格安で機種変更をしてもらうのだけれど、用意された端末は最新機種ではない。

解約させないためではなくて、もっと使いたいという気持ちになれば、自然と解約予備軍は減るはず。イシューを変更すると、取り組み内容が変わる。もっと回線速度が早ければいいのにな。いろんなサービスが充実していたら楽しめるのに。前職はコンテンツを扱っていなかったのだけれど、例えばオンデマンド動画配信サービスならば、コンテンツを充実させることが解約率の低減に繋がるはずだ。問題設定を変えるだけで、解も変わる。

より快適にインターネットを楽しめる環境を提案するようにした。最新機種もラインナップに加えたし、料金プランの変更も提案して電話でそのまま承れるようにした。動画配信事業者と提携して、希望のお客様に提案できるようにもした。結果として、解約抑止チームはテレマという業態にも関わらず、業績が向上したのだ。むろん、ぼくが一人で考えたわけではなくて、チームで検討した結果のことだ。その時の上司が、検討の方向性を切り替えようといわなければ、こうはならなかっただろう。

小規模事業者が弁当を作る。少しでも美味しいものを提供したいが、安心安全は絶対だ。両立することなんてことは、大きな設備投資が必要なのかもしれない。ただ、ここでコンビニのお弁当をゴールに設定してしまったら、それ以下のものしか生まれないわけだ。考えるべき課題は、この気温が高い状況で、安全で、なおかつ美味しいものを生み出すにはどういった工夫があるのか、である。我々人類は、食の歴史のなかでいろんな失敗をしてきたことは、ミルクシリーズの白い毒薬でも分かる通りだ。

思想としては当たり前のことでしかない。だから、この話をすると「そんな事はわかっている」と言われることが多い。だけど、わかっていても間違うことがあるのは、歴史に見られる通りだし、解を導いて行動に移すのは並大抵のことではない。

今日も読んでいただきありがとうございます。この話は、時々自分でも振り返って考えるようにしている。なにしろ、油断するとブレていくからね。誰かに言われたときに「そんなことはわかっている」という反応をしてしまうのは、「おっとこれは良くない兆候だぞ」と思い込むようにしているんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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