今日のエッセイ-たろう

「探す」と「出会う」情報 2022年8月17日

■公園代わりのショッピングモール

3歳の娘は、よくショッピングモールに行きたがるんだよね。近隣にいくつかあるんだけど、どういうわけかららぽーとがお好みのようだ。そして、どういうわけか「ララポトン」と言う。メロディーを付けてララポトン。確かに音符にピッタリ合っている。

なんだろうな。特にショッピングが好きなわけでもないのにさ。あ、連れて行くと必ずバスキンロビンスのアイスクリームをねだるから、それが目的なのかもしれない。そう思って他のアイスクリーム屋さんに連れて行くと、違うって言うんだよ。あの空間を走り回っているのが楽しいんだろうね。慣れているせいか、油断すると一人で走っていっちゃうんだもの。親としてはヒヤヒヤする。途中で立ち止まったり、戻ってきたりしてくれたら良いんだけど、どんどん言っちゃうんだもんなあ。

ぼくのほうには、ショッピングモールに行くべき理由は無いんだよね。娘や妻が行きたいと言うから一緒に行く。なんというか、公園を散歩しているような感覚かな。10年くらい前までは、洋服を買うのが楽しくて時々出かけていったんだけどね。最近はそういう欲求もないし。そもそも、外出する機会が少ないから洋服を新調したところで着る機会がないんだよね。前に購入した洋服がいっぱいあるんだから。傷んだものから処分していって、少しくらいは減らしたほうがいいくらいだ。

そんな感じでブラブラしているだけなんだけど。それでも時々は「お、これいいじゃん」と手に取ってみたり、羽織ってみたりすることがあるんだ。ほとんどの場合は購入するには至らないけどね。家のクローゼットを思い出して「やっぱやめとこ」ってなる。とりあえず新しいものに触れられたから良いやってね。

こういうのって、ネット通販ではあまり経験しないことだよね。アマゾンでも楽天でもヤフーでも良いけれど、通販の画面でウィンドウショッピングをすることってある?少なくともぼくはしない。何か目的があって検索してから見るというのが多いかな。ぼんやりでも何かしらの目的がある。具体的に「ジャケット」とか「スプリングコート」みたいに検索窓に入力することもあるし、「肌寒い」みたいにぼやっとしたキーワードのときもある。つまり、何かしら目的があってある程度は言語化する事ができる状況ね。そうでもないと、わざわざ通販サイトを開くこともないんだよなあ。

ショッピングモールは、買い物以外の目的でブラブラする。ぼくみたいにね。他にもいるはず。とりあえず遊びに行くってね。そうすると、目的もないのに情報が勝手に飛び込んでくるよね。こういう出会いって、減ってきているんだろうなとは思うのよ。買うつもりもなかったのに、うっかり購入してしまったという経験がある人はぼくだけじゃないよね。もうすっかりショッピングモールの戦略に乗っかている。

■「探す」ではなくて「出会う」

新聞離れと言われるようになってずいぶんと時間が経つ。確かに情報の取得はインターネット経由で済んでしまう。いや、むしろ詳細を知りたい場合には新聞よりも優秀なくらいだ。それは情報を「探す」という姿勢で見ているからだろうし、探す手段がセットになっているからなんだろう。新聞の場合は、「出会う」ことも多い気がしているんだ。興味のない記事だって目に入るから。そういう一覧性があるのが良いんだろうね。

そう。情報の取得には「探す」と「出会う」の2つのルートがあるっていうことだ。

インターネットのニュースは、それなりに一覧性があるものもある。一方で、好みに合わせた最適解を提案してくれるサイトも多い。動画サイトもね。そうすると、偏るんだよ。偏ると、それはそれで一定のジャンルに関しては詳しくなるよ。このアルゴリズムのおかげで助かることもある。googleなんか、やたらと「歴史」とか「食」に関係する記事をおすすめしてくるんだもの。ホントは他のことも見たいと思っていても、見ちゃうんだよね。興味もあるし、ラジオに使えそうな情報のきっかけにもなるし。

だけど。他の事に関する解像度が停滞しちゃうんだよなあ。

スーパーマーケットだって、同じだよね。とりあえず自分にとっては用のないものも並んでいる。鮮魚売り場にいけば、マグロの柵以外にも、ヒラメもあればカツオもあるし、海藻類もあるし、半加工品も並んでいる。へぇ、こんなものもあるのか。どうやって食べると美味しいんだろうな。とかいろんなことが頭をよぎる。購入しなくても、少なくとも情報に出会うよね。

売れ筋以外の商品があるというのは、情報に出会うという意味ではとても有意義だと思う。もちろん、売れ筋じゃない以上は、お店にとってはリスクだし、フードロスにもなりかねない。経済価値だけを考えたら、殆ど売れないものは切り捨てて、売上を伸ばすことが出来る商品を充実させたほうが効率的。なんなら、ネット通販で良いくらいだ。その方が固定費もかからないしね。スーパーマーケットは実店舗が基本だから良いけど、酒屋さんなんかは実店舗をやめて通販のみに切り替えちゃったところもあるよね。効率を考えるとさ。

■出会うから始まる認識の広がり

購入するかどうかよりも、情報に出会うってのが大切なんだと思うんだ。「あ、こんなのがあったんだ。良いじゃん」という感覚。そういうのが大切なんだよね。酒屋にしたって、目的の商品の近くに違うものがあって興味を惹かれる。そうすることで、世界がちょっとだけ広がるよね。

以前、静岡市の清見寺を訪れた事があった。珍しく仕事で、しかも兄弟揃って車移動していたときに、偶然通りかかったんだ。清見寺っていうのは、お茶のシリーズに登場する「清見のお茶」「聖一国師のお弟子さんが関わったお寺」だね。ちょっとだけ時間があったから、立ち寄ったんだよね。

ちょっとした山の上にある。石段を登って山門に辿り着く。振り返ってみると、眼前に広がるのは清水の街並みと、その向こう側には駿河湾だ。これはなかなかの景色。

ゆっくり楽しめばよいのだろうけれど、そうもいかないのがぼくの性分なんだろうね。ぼくの中にある情報と、いま目の前に広がる景色が連結していくんだよ。

清水港は静岡茶の輸出拠点となった港で、そこから西に伸びる線路が静岡鉄道。終着点は茶町だ。港から少し南に行ったところには清水次郎長の生家がみえる。少し右に視線をずらして、遠くを眺めればそこは久能山。家康を祀る東照宮のある山でも有り、聖一国師が修行した山でもある。

一望するからこそ、分断された情報が接続する。ってこういうことを言うんだろうな。もちろん、これは景色だから基礎情報を知らないとわからないかもしれない。でもさあ。違う時代に登場した場所や人物の痕跡が一望できるんだよ。距離感が身体的にわかる。そうすると、いろいろと繋がるものが見えてくるってことがあるじゃん。この景色に情報が付加されていて、同時に見ることが出来たら面白いだろうなあ。それこそARとかVRみたいな技術で実現できないもんだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。一覧性というよりも、情報に出会うってことが大切なんだろうな。どのようにして情報に出会うかだよね。興味がある本を読んでいたら、ついでに出会うっていうこともあるよね。食事をしていたら、知らない料理や調理方法に出会うって。そういうも楽しいと思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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