今日のエッセイ-たろう

「楽しい」が広がっていく環境を作ろう。 2023年7月8日

身の回りにいる中学生や高校生。彼らが憧れる職業を耳にすることがあって、それがなかなかおもしろい。言わずもがな、人気の職業はユーチューバーという声が多い。多いのか声高に言っているだけなのかわからないけれど、目につくのはこうした職業のようだ。ボクらの時代だったら、芸能界に憧れたような感覚だろうか。

他にも、起業家と言う人もいる。何かやりたいことでもあるのかと訪ねたら、そういうわけでもないらしい。とりあえず、ユーチューブで見かける「起業家」という人種がカッコイイということか。稀に、妙に現実的な話をする中学生や高校生がいる。その中に、料理人になりたいという声があって、少しだけホッとする気持ちが湧く。

彼らが憧れる職業。なぜ、その仕事をしたいと思っているのだろう。これがとても興味深い。色々と訪ねてみると、案外答えはシンプルだった。彼らの目からみて「キラキラと輝いて」見えるもの。単純にそれだけのことだ。

ユーチューバー、起業家、スポーツ選手、アーティストなど、その時代によって目立つ人がいる。その活躍が目に入るのだ。そうすると、大人たちは決まってこう言うのだ。活躍している人たちは、活躍するだけの才能と努力を重ねられた人だ。メディアで目立つような人たちはごく一部なのだから、もし本気で目指すのであれば相応の覚悟が必要だ。とね。

しかし、彼らが憧れている理由の一番の理由はそこではない。成功しているという事実も大切なのだろうけれど、成功者だと言うだけで憧れているわけじゃないんだ。もっとこう野性的な感性が働いている。とにかく「楽しそう」であるという事実が大切なのだ。

楽しそうというのは、「私もその職業につけば楽しいだろうな」と思っているということ。そう思えるのは、有名なユーチューバーなり、起業家なり、スポーツ選手なりが、本当に楽しんでいるからだ。心底打ち込んでいて、大変なこともあるだろうけれど、それすらも楽しそうに語っている大人。そういう人に子供は憧れる。そういう人たちが「楽しい」と感じている世界に興味を持つ。

料理人とは言わなかったが、娘は「食に関すること」に携わって生きていきたいと言った。それまで、あまりやりたいこともなかったらしいのだけれど、食に関連することを学びたいと言って大学受験に本気で取り組み始めた。なぜか、と訪ねたら「お父さんたちが、楽しそうに食について取り組んでいるから」だと言う。涙が出るほど嬉しかった。

身近な大人が楽しそうに取り組んでいること。たぶん、それが子どもたちに影響を与えるのだと思う。何を成したかよりも、これに尽きる。嬉しいこともしんどいことも、全部ひっくるめて楽しい。そういう感覚が伝わると、その世界の事を知りたいと思ったり、参加してみたいと思ったりするようだ。そう考えると、子供が夢を語れないとしたら、周囲にいる大人の責任だろうということになる。

家業を継ぐ、学校のセンセイになる。などという言葉があまり聞かれないのは、もしかしたら「楽しい」が伝わっていないのかもしれない。僕の場合、自宅が両親の職場とイコールで、楽しさよりも大変な部分ばかりが目についた記憶がある。バブル期の飲食店は、とにかく忙しくて、なかなか家族で会話する余裕もなかったのだ。ある程度年令を重ねてから、家業を継ぐことが以前ほど嫌じゃなくなったという感覚で今の仕事をしている。やってみると、案外面白いことがわかった。ぼくが作った料理を食べて、それだけで幸せになる人がいるということは、僕にとっても幸福なことなのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。誰かが積み上げてきた食文化を知ることも面白いし、人々の生活を眺めることも面白い。そして、それを発信することも面白い。ぼくが面白いと感じていることを、同様に面白がってくれる人がいるということは、なんとも嬉しいことじゃないか。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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