今日のエッセイ-たろう

「食料と経済」の思考実験 2024年9月26日

ずっと前から気になっていることがあるんだ。というか、ちょっと気に食わないんだよ。米とか麦とかトウモロコシとか、現代の人類の命を支えている食品を投機の対象にしていることに、違和感があるのだ。

どうしようもないのかもしれないけどさ。人類は「保存性の高い食品を大量に確保したものが強い」という社会を長い間過ごしてきたからね。貧富の差は農耕の発展とともに始まったという話もあるくらいだし。

けれども、投資するのはいいけれど投機はどうかと思うのよ。

今年は小麦が不作だってことになれば、当然価格は上がるんだよね。それは市場原理でそうなるはずなんだけど、じゃあ今のうちに買い占めておけば儲かるってことで投機すると、割りを食うのは貧困層なわけでしょう。主要作物が高騰すると、世界中の貧困層の食が貧しくなるってことになる。

誰かが儲かるってことは、別の誰かの富を受け取るっていうことなんだけど、それは等価交換みたいな形で行われて欲しいと思うんだ。商品やサービスを提供して、その対価としてお金を受け取る。お金を払った人はちゃんとそれに見合った富を受け取っているから、トントンになるんだよね。そうじゃない形だと、マルクス主義の主張する資本家による搾取に見えるんだ。

個人的には、一次産業をもっと直接的に支援したら良いと思っている。だって、ぼくらが生きていくためにはお金よりも食べ物のほうが重要だもの。今はまだなんとかなっているけれど、食料も作れなくて買うこともできなくなったらあっという間に飢饉が起きるってことだからね。ぼくらはとっくに飢餓を克服したと思い込んでいるけれど、そんなこと無いんじゃないかな。日本における決定的な食糧不足が起きたのは、戦後復興期。まだ100年も経っていない。いつまた飢餓に陥るかわからないでしょう。

人類は3つの災を克服しようとトライしてきたって言うよね。飢餓、疫病、戦争。で、比較的影響は軽くなってきたけれど、それでもまだ疫病は発生して多くの人が亡くなったし、大きな戦争も起きている。どうして、飢餓だけが起きないと言えるのだろう。日本だけは安泰っていうのは、幻想じゃないかな。

例えばオーストラリアでは、穀物とかジャガイモが安いんだ。ビッグマックセットは日本円で1600円くらいするのに、主要な食品は日本と変わらないか、それより安いくらいの価格。そういうバランスになっているんだって。決して経済的な国際競争力が高いわけじゃないけれど、それなりにリフレが起きていてゆっくりと所得は向上している。経済的商社とは言えないけれど、食べ物が安いからみんな安心して豊かに暮らしていけてるよ、なんて話も聞いた。

オーストラリアで食料価格が安いのは農業大国だからっていうこともあるんだけど、それだけじゃないらしい。この商品は100%オーストラリア産です、っていう表示がされていたりして、自国の一次産業の価値を高める動きがあるというのだ。

みんなで一次産業を支えていく。という意味で、一次産業にはもっと税金を投入しても良いと思う。なんなら、主要作物生産にだけはベーシックインカムを導入しても良いんじゃないかとすら思う。安価に食料が流通することで生活が安定するのと同時に、自国の米にプライドと感謝をする。で、それを基盤としてサービス産業を高付加価値商品にして、大きな経済のエンジンとしていくとか。

もし米農家に生まれていて、もう生活が苦しいから子どもには注がせたくないなんて言われて、で生産者が減ったらどうなるか。苦労する割には儲からなくて、それよりも容易に儲かる業界も存在していて。でも、その人達も米農家の苦労の結晶を食べて生きている。カネを稼いだほうが偉いわけじゃないでしょう。ご飯がなかったら、みんなが困るんだよね。

こんなことを書くと社会主義っぽいと思われるかもしれないけれど、そういう部分もぼくのなかにあるかもね。うまくいえないのだけど、ハイブリッドで出来ないかと思うんだ。ライフラインと可処分所得の消費先とでは、産業の価値のタイプが違うような気がするから。それぞれに合わせて、仕組みづくりが出来ないのかな。

今日も読んでいただきありがとうございます。先日書いた「食料生産と経済」について考えを進めて、極端に振り切って思考実験をしてみたら、こんなアイデアが浮かんできちゃったんだけど、どうだろうね。案外悪くないんじゃないかって気もしているだけど。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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