今日のエッセイ-たろう

いつのまにか変わっていく常識と付き合う。 2025年4月8日

いつの間にかルールというか、生活上のルーティーンが変わっていくことがある。例えば家の鍵を置く場所だとか、選択の手順だとか、そういったホントに些細なこと。一人暮らしなら、自分ひとりのことだから当たり前に行われていく。だけど、家族がいるとルーティーンを共有しておかなくちゃいけないことも多い。だから、ルールを作ったりして共有していく。と、思いきや、実はほとんどのケースでは、意識的にルールを作ったりしない。

なんとなく。

誰かが、ちょっとしたカイゼンをしてみる。それに大きな反論がなければ、多少の不都合があっても馴染んでしまう。意識的な過半数が馴染んでしまえば、それが新たな習慣になって定着していく。

家の鍵は玄関に置かれたトレイの中。というのがそれまでの生活だったとしよう。そのうちに、車の鍵や細かなアクセサリーもトレイに入れられるようになるかもしれない。そうすると、家の鍵が埋もれてしまって、探すのが面倒になる。で、家族の誰かが気を利かせて、家の鍵だけフックに掛けられるようにしたり、別のトレイを用意したり、アクセサリー類を移動させたりする。

このとき、わざわざ情報を共有しないこともある。だって、鍵がフックに掛けられていることは見ればわかるからだ。きっと自分以外の誰かがカイゼンしてくれたんだな。と思って、それに従うだけ。で、それが新しい当たり前の日常になっていく。

なんてことない話なのだけれど、ここに「ルーティーン変化」のパターンがあるように思う。少数の集団で、ある程度気心がしれていると信じている場合、個人的に良いと考えたことを実行しても許されると感じてしまう。8人の集団のうち5人がそれに従うようになれば、残りの3人はマイノリティになる。毎日発生するルーティーンならば、比較的共有する機会がありそうだけど、頻度が低い場合にはトラブルになりやすい。

マイノリティにとっては、毎日行わない。ステレオタイプの、近代的家族像の中で父親がこれにあたる。アニメ「サザエさん」で言えば、波平さんやマスオさん。家にいる時間が少ないものだから、家の中のルーティーンだけを見ればマイノリティになる。他の5人が毎日繰り返しているルーティーンに組み込まれないことも出てくるだろう。

「サザエさん」の世界観では家族間問題になるイメージはないけど、ぼくらの日常では問題の火種になりかねない。家族であれば良いのだけれど、職場などの集団では特にリスクが高いと思う。共有の道具の収納場所を合理的に考えて変更したとき、それを共有しなかったら他の人達にとっては隠したのと同じことである。

誰かの新たな慣習に従っていくことでマジョリティが形成されていくと、いつの間にか常識が変わっていく。人間の記憶はそもそも曖昧であるのに、大して意識していない事柄においては記憶を上書きしてしまう。そして、まるで慣習が変化した事実がなかったかのように振る舞う。

時々見聞きするジェネレーションギャップの正体は、いつの間にか変わってしまった常識と既存の常識とのズレのことだが、それが共有されていないことが根幹なのだろうと思う。

寄せては返す波のように、その時々で異なる慣習が常識となる。ファッションが一定周期で入れ替わり続けるように、過去にあった常識が一定の期間を開けて、少し形を変えて再び返り咲くこともある。

そうした変化の中にありながら、どういうわけか残り続けてきたものもある。いわゆる伝統と呼ばれるもの。それだけ求心力が強いのか。だとしたら、惹きつける力の源泉はなんだろう。地域や文化によって伝統が異なるのは、どういった影響があるのだろう。いろんな疑問が浮かんでくる。が、今日のところはここまで。

今日も読んでいただきありがとうございます。情報共有っていうのは、コミュニケーション。とても大切だよね。で、そのためのテクニックとか、考え方も大切だと思うんだ。明文化したルール作りもその一つ。だけど、そればっかりに寄せすぎるのもどうかと思うんだよ。明文化すると、遊びというかゆとりがなくなるリスクもあるからね。天網恢恢疎にして漏らさず。国を治むるは小鮮を煮るがごとくにす。コモン・ローっていうのもそういうことなんだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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