今日のエッセイ-たろう

そろそろ新米。次はどんな米問題が起きるだろう。 2024年9月20日

そろそろ新米の季節がやってきた。なんとなくワクワクするのは、静岡なら新茶の時期と似たような感覚なのだけれど、伝わらないだろうなぁ。いままでなら素直に新米を楽しみにするだけで良かったのだけれど、どうやら今年はいろいろ心配事もついてくるようだ。

今年は、夏前くらいから急にお米の市場在庫が減少した。ニュースでも米不足と言われていたが、令和5年の米収穫量は前年比101%なのでそんなことを言われてもピンとこない。どこか、流通に問題が有るのだろうか。専門家の話を聞いてみてもイマイチぼんやりしている。とにかく、お米の価格が上がることだけは確実だ。

足元を見ているというわけじゃなく、需給バランスによって価格が上がるのは市場原理だし、そもそも今までが安すぎたのもある。燃料費が高騰していて農業機械を動かすのも、遠方へ輸送するのもコストが膨れ上がっている。そんな中でも価格が高騰しなかったのは、その分のコストを「誰か」が負担していてくれたからだ。どんなに頑張って良い作物を作っても利益が出ない、それどころか赤字になるようなら「持続可能」ではないのだからしょうがない。

このところの商品不足や輸送コスト増の影響から、かなり多くのスーパーマーケットが農家と直契約を結ぶようになったそうだ。生産コスト増が理由だとは言え、やはり小売店としては「高い米」は「売れない」のだ。少しでも安くしようと思ったら、中間マージンを極力減らしたり、全量購入を約束することで単価を下げたりといった工夫が必要となる。

消費者にとってはありがたいことでは有るのだけれど、実はちょっと雲行きが怪しい。

お米の卸売業者は、利益を搾取しているわけではなく、社会インフラとして必要性があって存在しているのだが、状況によってはこのシステムが崩壊するリスクが有るのだ。

卸売業者は、各農家の米の過不足を調整している。生産量の多い農家も少ない農家も有るなかで、それらの米を集約して商品にする。当たり前のことなんだけど、もし直契約の農家の在庫がなくなったらそのスーパーマーケットの商品棚からは米が消えるわけで、そうならないように調整してくれているわけだ。

たぶん、しばらくは価格も荒れるだろう。そもそも、多くの米農家は直接販売などしたことがない。経験があったり、ちゃんとマーケットを勉強したりすれば適切な値付けが出来るかもしれないのだが、そういう人は少ない。なんとなく「こんなもんだろう」と値付けする。もしかしたら、スーパーマーケットの言いなりの価格で販売することになるかもしれない。他にもいろんな状況が生まれるだろうが、簡単に言えば市場が混乱する。落ち着くまでは、あっちこっちで価格の不整合が起きる可能性がある。同程度の品質なのに大きな価格差があったり、過不足調整の不具合から地域ごとの価格差が大きくなったりするかもしれない。

卸売業者といっても大小様々だし、考え方も様々だろうから、私の知らない事情もたくさんあるはず。ただ、近所の「お米屋さん」は、いま挙げた仕事を日々こなしてくれていて、おかげで当店でも米を切らさず提供することが出来ている。

食をテーマに歴史を学んでみて、この現象は非常に再現性が高い。だれもなにも悪いことをしようと思っていないのだけれど、気がつけば不整合が起きている。今回はあくまでも予測でしか無いので不整合が起きると決まったわけではないけれど、過去の文献で見た現象によく似ているのだ。

それぞれの事業者がそれぞれの課題に対して真摯に取り組んだ結果、全体のバランスが崩れて必要な機能を失ってしまう。これを回避するために、人文知が有効なのだと思う。

この先、誰かが強権を発動して調整してくれるのだろうか。江戸時代はそうしてきたのだが、現代どうなるかはわからない。ならば、少しでも現場や私達消費者がある程度学んでおく必要があるのだろう。

今日も読んでいただきありがとうございます。江戸時代の「改革」って、こういうシステム不具合の調整だったりするんだよね。何度も行われているということは、もぐらたたきみたいなもんなんだろうな。歴史を見ると、政治は後手が本質っていう気がしてくるよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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