今日のエッセイ-たろう

ちょっと前の時代には当たり前だったこと。 2024年10月21日

ときどき「量り売り専門」の食料品店の取材記事を目にする。ぼくが食品や食文化について検索しまくっているおかげで、検索サイトがオススメしてくれるのだ。エコーチェンバーを促してしまう原因にもなってくれているけれど、関連していたり、隣接する内容を紹介してくれるというのはありがたい。

量り売り専門店を取材した記事を読んでいると、取材した人がけっこう戸惑っている様子がわかる。

「いつも人参ってどのくらい消費していたんだっけ?」「肉って何グラム買えばいいの?」「あれ?野菜ってどうやって持って帰るんだ?」「豆腐を買いたいのに容器がない」

現代の一般的なスーパーマーケットならば、手ぶらでお店に行く。せいぜいエコバッグを持って行く程度だが、それも車やバッグの中に常備しているという人も多いから、買い物のための準備などほとんど考えていないだろう。

ぼくが幼い頃は、祖母に手を引かれて買い物に出かけたものだ。住宅街にある小さなマーケットで、野菜も果物も肉も鮮魚も、たいていのものはそこで揃えられた。少量ながら洗剤などの日用雑貨も扱っていたと記憶している。

そこでは、野菜も果物もすべてが量り売りか籠盛りだった。商店街の八百屋ではないから、「おっちゃん人参3本ちょうだい」などということはなかったけれど、売り場にある野菜をむき出しのまま買い物かごにいれるのは当たり前の光景だった。

肉は、ガラスのショーケースに並んでいた。背の低い子供から見える景色は、スライスされた牛肉の山やブロック状の豚肉などがずらりと並んだ肉の見本市。「バラ肉200」といえば、その場で計って白い紙と緑の紙にくるまれて手渡された。たぶん、水を通さない油紙かなにかだったのだろう。魚もだいたい似たようなものだったけれど、場合によってはプラスチックトレイやビニール袋が使われていた。そういえば、アサリは水槽の中にあってエアポンプがポコポコと空気の泡を出していたけど、あれはどうやって持って帰ったのだったかな。

豆腐は、当時すでにパック詰めされていたけど、祖母はマーケットではなく夕方やってくる豆腐屋さんの軽トラから購入することのほうが多かった。家の眼の前まで来るから、鍋やボールを持って祖母の後をついていくのがぼくの役目だった。

予め献立を決めてから買い物に行っていたのか、それとも食材を見ながら考えていたのかはわからない。ぼくの記憶にある祖母はたいてい、頬に手を当てて食材を眺めていた。もしかしたら、その場で考えていたのかもしれない。

現代と比べればずいぶんと小ぶりに見える冷蔵庫だったから、多くの食材を家にストックしておくわけにもいかない。ほとんど毎日買い物に行くのが日常だった。そのせいか、祖母はいつでも家の食料在庫量を把握していた。きっと買い物かごを肘にかけながら考えていたのは、家の食材を含めた献立だったのだろう。

現代の生活にマッチしているかどうかはさておき、食品保存システムとしては優秀だったかもしれない。なにしろ、まちの小さなサプライチェーン全体が、みんなの共同の食料庫みたいなものだ。保存に必要な空間やエネルギーをシェアしていると思えば、効率は良さそうだ。常に家にある食材の在庫を把握しているから、ほとんど無駄にすることなど無い。加えて言えば、戦前の生まれの祖母が、食べ物を粗末にすることなど有り得なかった。その点については、厳しく言われたものである。

懐古主義的にもとに戻る必要はないし、元通りにできるとも思えない。ただ、ちょっと前の時代ならば量り売りの店に戸惑うこともなかったはずだから、現代版にアップデートして取り入れられたらなとは思う。過去の良かった部分を、現代版にアップデートすること。それが大切だし、テクノロジーはそのために使うものなのだろう。

今日も読んでいただきありがとうございます。お天道様に感謝。お百姓さんのおかげ。ありがたいし、もったいない。粗末にすれば申し訳ない。そういう感覚はどこか素朴に感じられて、SDG'sやエコというのとはちょっと違う感性かもしれないね。こういう感覚も現代版に実装できたらいいのにな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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