今日のエッセイ-たろう

ぼくらは意味のないものから生まれて、意味を探そうとしている。 2023年9月15日

ひとの思考は、脳だけで行われるものじゃないのだな。とつくづく思う。ぼくは、ぼくの身体があるから生まれる思考があるし、あなたにはあなたの身体があるから思いつくことがある。

例えば、手のひらを怪我したとするじゃない。日常生活で意識することはあまりないけれど、実際に怪我をしてみると、手のひらってよく使っているんだなということに気がつく。そういう経験をしている間でしか考えられないことってあると思うんだ。どうにかして怪我した手を使わないようにと考えながら行動する。そんな機会は、その間だけのものだ。

アスリートには、アスリートにしか思いつかない発想もあると思う。本を読んでも、旅行に行っても、食事をしていても、だいたい専門としているスポーツに紐づけて考えてしまう。新たな技術を習得するために必要な時間だとか、練習方法だとか、つまづくポイントだとか。ぼくなんかよりも、ずっと解像度が高く見えていることだろうと思う。

脳でも体でも、個々それぞれの身体的特徴によってある程度の傾向がある。とそんなふうに思う。そのうえで、学習や経験やトレーニングなどが加わって、個々の違いが大きくなるのかも知れない。

ぼくにとって、ぼくの体を持って生まれたことには特別な意味はない。意図はないと言い換えたほうが正確だろうか。こういうことをしたいから、こういう人になりたいから、という理由でこの体を手に入れたわけじゃないのだ。予め目的を設定されたものではなくて、特別な意味を持たないもののなかからアイデンティティが生まれてくる。意味などないとされているものからしか、生まれないものもたくさんあるだろう。そんなふうに思えてくる。

世界中の大半が都市生活を送るようになって、自然とは距離ができた。ぼくらが自然だと思っている「公園」というものは、自然ではない。自然とは、「人間にとって意味がある」ために存在しているのではない。それぞれが、それぞれに勝手に生きて、繁殖して、そして消えていく。ただそれだけの存在。だとすれば、公園というのは「人間社会のため」という意味を持たされて生まれたものだと言える。

存在そのものに意味をもたせる。そのことに慣れてしまっているのかもしれない。本でも映画でも、おもちゃでも何でも良いが、それはなんの役に立つのですかという問いがつきまとうのだ。ディズニー映画で有名な「美女と野獣」は、「女子教育の教材」として書かれた物語だそうだ。最初から役割を与えられていてということだ。

多くのおとぎ話は、教訓めいたメッセージが込められていることがあるし、過去の出来事を伝承する役割を担っていたりする。なのだけれど、そうではないものもたくさんある。ただただ単純に面白いから。作者も作りたいから作ったし、語り継ぐ人も語りたいから語り継いだだけ。

もしかしたら、私達現代人が「教訓や美徳」を感じ取って、なにかしらの意味を得ているものは、錯覚かもしれない。もともと、なんの意味も意図もなかったものなのに、勝手に意味と感じてしまっているだけなのかも知れないのだ。

日本の美意識のなかには、鑑賞者が強く意識される。鑑賞者のために発信するということもあるけれど、どちらかというと鑑賞者に責任を負わせるというスタンス。和歌でも絵でも、作者は自由に思うことを書くだけで、作品から何を感じ取るかは鑑賞者次第。

散りゆく桜、冬の海辺、夏の草原、色づく紅葉。こいういった風景にはなんの意味も意図もない。そこから、何かを感じて楽しいとか寂しいとかいった感情をのせて感じるのは鑑賞者のものなのだ。

アートも思考も、鑑賞者によってそれが何であるかが決まる。つまり、鑑賞者こそが作家であり、学者であるとも言える。刺激を受けて、何かが想起されること。そこから始まる世界が楽しいのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。思考は発進した瞬間に死に、受け取った瞬間に別のものとして生まれ変わる。みたいなこと言ったの誰だっけ。違ったかな。身体とか環境とかが、どれほどぼくらに影響しているのかって考えると、ぼくらの存在そのものが不思議なものに思えてくるんだよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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