今日のエッセイ-たろう

みんなで街づくりという難しさ。交換関係と社会契約と協力関係。 2023年4月28日

ちょっと批判めいた話から始める。組織に対する批判について、さらに批判的な感想という話だ。

企業とは少し違うのだけれど、例えば観光協会や商工会議所や飲食店組合といった民間団体のなかで「協会が何もしてくれない」という批判を聞くことがある。当然だけれど、そうした声を発しているのはそれぞれの団体に所属している人である。毎月会費をおさめているのに、それに見合った報酬が還元されていないということを言いたいのだろう。

買い物をする。投資をする。それにはリターンがあって然るべき。費用対効果を考えれば、確かにそういうことになる。気持ちはわかるのだけれど、こうした民間団体にそれを期待するほうがどうかと思うのだ。一般企業のように交換の契約をしているわけでもないし、行政のように社会契約の状態でもない。そもそも、民間団体は有志の人たちが集まって、ある課題に対してみんなで力を合わせて取り組もうというところから始まっている。

例えば、観光協会がうちの店のために何もしてくれない、と考えたとする。うちの店のために観光協会が出来ることと言えばなんだろうか。観光案内所で優先的に自分の店を紹介してくれることだろうか。それとも、公式動画や広告で紹介してもらうことだろうか。何を望んでいるのだろうか。

そもそも、観光協会とは何のために集まった人たちの団体なのだろう。広告をして集客をして斡旋するために存在しているのだろうか。もちろん、そうではない。観光に携わる人たちが現場の知見や知恵を持ち寄って、地域の観光業を盛り上げることを目的としている。全体が盛り上がれば、結果的に地域の企業に利益が循環することになるだろうということを前提としている。

行政にも観光課というのはあるのだけれど、行政だけでは出来ないことを実践していく。例えば、イベントを企画したとしてそれに必要な予算を捻出する。行政からの支援をもらうことも出来るけれど、スピードに欠ける。補助金のほうが金額が大きいが、それまでの当面の資金を提供するといったケースも有る。個人や小企業では構築するのに労力が大きい仕組みづくりも、協会の事務局が保有している仕組みを使うことで円滑に事業を進めることが出来る場合もある。そうした支援を行っているのだ。

では、誰がイベントなり事業なりを企画しているのか。役員が提案することも多くあるけれど、もちろんそれに限らない。観光協会の会員であることもあるし、全く関係ないところで提案されることもある。つまり、観光協会としては地域の観光行政にプラスに働くと判断される内容であれば、提案者が誰であっても実行者が誰であっても構わないわけだ。

少なくとも、ぼくが所属している観光協会ではそうである。

現在、ぼくは支部の副会長をしているのだけれど、企画立案は副会長になったからやり始めたことではないのだ。役員ですら無かったときから、こんなアイデアがあるのだけれどどうだろうと相談に行ったし、提案書を作って提出したこともある。誰かのイベント企画に参画したり、批判をしたりもした。そういうことを勝手にやっていたら、役員をやってくれないかと請われるようになって、そのうちに副会長をやってほしいと言われるようになってしまっただけのことなのだ。

で、ぼくら役員は無報酬である。最初に書いたような買い物のような感覚で言ったら、まったく割に合わない仕事をしているのだ。無報酬どころか会費を払っていて、交流の際の交通費や飲食代も、企画の調査に必要な経費も基本的に実費である。その上で労働しているのである。で、同じ条件である人たちから「何もしてくれない」と言われても納得できないのである。ある意味、こんな団体の役員を引き受けている人たちは奇特な人だと思う。

そもそも、何もしてくれないと言っている観光協会とは会員全体のことである。批判をしている人は、自分が自分に何もしてくれないと言っているのに等しいのだと思ってしまう。

さて、こんな愚痴はどうでも良い。問題は、意識である。役員でなければ行動できないというレッテルを、比較的多くの人達が持ってしまっていることだ。もうひとつ。なにかにチャレンジする時に、相談すれば助けてくれるかもしれない団体があるということが知られていないということである。

「おれが役員だったら、こうするのに」という声を何度も聞いた。ぼくが役員になる前のことだ。だったら、やればいいのに。勝手にやるなり提案するなりしたらどうだろう。少なくとも会員であれば、誰が快調なのかを知っているわけだし、小さな町では連絡する方法などいくらでもある。事務局だって、駅の構内に堂々と設置されていて、常駐スタッフだっているのだ。

ただ、役員でなければ出来ないと、やってはいけないと勝手に思いこんでいるに過ぎない。立場によって方法は変わるが、やりようはある。と思うのだけどどうだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。批判することは、良いことであると思っているし、必ずしも対案を出さなければいけないとも思わない。批判がきっかけになって、より良い状況になるのであれば、それは良いことに決まっている。批判もアイデアも、対象に届けなければ言っていないのと同じ、というのがぼくの考え方かなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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