今日のエッセイ-たろう

ウェットだけど節度ある距離感。日本らしいエコシステムとオーケストレーション。 2024年1月14日

日本の伝統工業は、細分化された専門性が特徴的だと言われる。西陣織、蒔絵、包丁などは、それぞれの工程の専門家が代々技を磨き続けてきて、いくつもの家がワンチームとして機能しなければものは完成しない。一人の職人が最初から最後まで一貫して作り上げるスタイルも好きだけれど、町全体で一つのものを作り上げるスタイルも好きだなぁ。

ちゃんと調べたわけじゃないのだけれど、きっと他の国でも似たようなエコシステムはあるのだろうと思う。ただ、どこかのタイミングで「社内で内製する」スタイルに切り替わっていったのじゃないだろうか。そういう意味では日本のモノづくりもそうかもしれない。古くからあるモノづくりがちゃんと続いていて、だからこそエコシステムが続いているというだけのことなのだろうか。

分業スタイルにはデメリットもあるけれど、メリットもある。まずひとつには、徹底的に技を磨いていくこと。格闘技で言われることだけれど、パンチ以外の技を封じたからこそ、ボクシングは他の格闘技には無いほどにパンチの精度を高め続けてきたという。なにか一つのことに専念するってそういうことだろう。

もうひとつは、連携かな。社内の人じゃないからこそ、案外ちゃんと連携するのかもしれないと思うのだ。特に伝統工芸では、歩いて行けるくらいの距離に仲間がいることが多い。仕事以外での、例えば地域行事などでも付き合いがある。何代にも渡って繋がりがあるから、互いの家族のこともわかるくらいにはなる。とてもウェットな関係で、人によっては面倒かもしれない。ただ、そのおかげで信頼が構築されるということもありそうな気がしている。このあたりの関係構築が実に日本らしいという気もする。

昨今のフードテック業界を見ていると、伝統工芸的なチーム形成がトレンドのようだ。少し前までなら、ベンチャー企業が協業していた大手企業の中に取り込まれるということがよくあった。ベンチャー企業も大企業も、個人も、互いの専門スキルを持ち寄ってワンチームとして活かし合うとか、パスを繋ぐ。そのほうが、メリットがあるということだろう。

マーケットに視点を移してみると、ニーズがどんどん多様化していることがわかる。かつてはテレビの歌番組やドラマなどが「みんなの好きな歌」を作り出していた。みんなの好きな歌は、きっと僕の好きな歌。もうそんなことはないよね。まさに十人十色。

多様なニーズに応えるためには、多様な価値の提供が必要になる。ぼくらのような料理人も、全体で見ると「いろんな美味しさ」を提案している。10店舗あれば、それぞれに違う味だ。つまり、ニーズが多様化していき、それに応えようとすればするほど1店舗あたりの顧客数は減少することになる。多様化を担保するってそういうことだ。

伝統工芸的なチームづくりと、ニーズの多様化に応えるということを組み合わせる。

生産現場も加工業も、物流も小売も外食も投資家も。食に関連するプレイヤーが、まるでオーケストラのように一つの音を奏でるという世界観が見えてくる。理想論かもしれないし、歴史を見ていると割りとたくさんの失敗例も見つかる。ただ、それはワールドワイドで見た時の話。実は日本人にとっては得意なのではないかと思うのだ。日本的なウェットな関係だったり、しがらみだったりというのはデメリットが強調されがちだけれど、ことオーケストレーションにおいては得意分野なのではないだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。もうとっくに動き出している人は動いているよね。昨年も参加させてもらったSKSJapanの参加者の中に、そういう人たちがたくさんいらっしゃったし。主語が「我が社」とか「私」じゃないんだよ。みんな「私たち」で話していたのが印象的。実に日本らしくて、とても好きな感覚だな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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