今日のエッセイ-たろう

エンタメと食とオフ会。 2024年2月27日

たべものラジオのオフ会兼フグ食べ比べ会から、ふじのくに地球環境史ミュージアム企画展ツアー。2日間に渡るイベントも盛況のうちに幕を閉じた。主催では有るものの、ぼくらが頑張ったと言うより、参加者の皆さんの盛り上がりに助けられた感がある。久しぶりに会う人達、ハジメマシテの人たち、オンラインでだけ交流のあった人たち。昨年の倍ほどの人が集い、交流していたのがとても嬉しかった。

食事というのは、エンターテイメントなんだろうな。というと、誤解が多いのだけれど、広い意味でエンタメ要素があると感じている。

インスタなどで見かけるような派手な演出。例えば鉄板焼きのアクロバティックな動きを見せるのもエンタメ。無駄な動きが一切なく、洗練された寿司を握る動作もまたエンタメと言える。直感的に真逆の性質を持っているようにも感じられるのだけれど、どちらもエンタメなのだ。

前者は、その動きそのものがジャグリングやサーカスなどのようなエンタメとなっている。後者は、その動きそのものも興味の対象では有るけれど、ニギリズシを味わうための前フリとしての要素が多いように思う。動きを見せるという意味では共通しているけれど、違うもののように感じられるのはこの部分だろうと感じるのだ。

茶道では、一服の茶に焦点があたる。庭も、床の間の軸や花も、茶懐石も酒も、それらに用いられる器も。全ては、最後に供される一服の茶を最高に楽しめるように仕掛けられた「壮大なる前フリ」なのだ。と聞いたことがある。もしかしたら、客同士の会話すらもその一部なのかもしれない。流派や茶人によって考え方は異なるのかもしれないし、僕自身が茶の湯の経験がないので明確なことは言えないのだが、こういう考え方もエンタメであると言えるのじゃないかと思っている。

料理の話ではないけれど、似たような考え方をすることがある。ずっと若い頃にバンドをやっていて、ドラムを演奏していた。ボーカルを主役として考えるから、ぼくの演奏はそれを引き立てるためのもの。例えば、フィルインというドラム演奏が一瞬の間だけ派手になる部分があるのだけれど、それはその次の展開へ繋ぐための仕掛けであって前フリ。展開がスムーズに行われることで、ボーカルがより引き立つということを意識していた。エンタメをエンタメとしてより豊かなものにするための工夫であろう。

ふぐ食べ比べ会で主役に据えられたのは、「コミュニケーション」だ。食事というエンタメを共有することで、会話が弾む。トラフグは比較的知られているが、マフグやシロサバフグやシマフグなどは影が薄い。知っていたとしても、並べて食べ比べる機会など稀有なことである。人それぞれに気づきが有るだろう。こうした気づきは、きっと誰かとシェアしたくなるものだ。家族や友人でもいいし、たまたま近くにいる同じ体験をした人でもいいわけだ。そしてその人が、同じものに興味を持っている人なら、なお親しくなる可能性が高まる。

この空間を演出するための仕掛けとして考えたのが、座学と体験。フグについての知識はすでにたべものラジオの本編で配信しているのだけれど、復習とアップグレード情報を共有した。そして、フグの解体を見てもらい、てっさを引く体験をしてもらう。大雑把にだけれど、実はちゃんと考えて構成したんだけど、その通りになっただろうか。

今頃になってこんなことを書いているのは、事前に伝えてしまうと意味がないから。気づかれないように仕掛けないとね。もしかしたら気がつく人がいるかも知れないけれど、それはそれで楽しいわけだ。茶事では、招かられた客が答え合わせのように亭主に手紙を送ることがあるらしいが、あとになって気がつくという程度で十分だし、気が付かなくてもいい。演出がハマって盛り上がればそれで構わない。

以前、知人に「日本料理にはエンタメが足りない」と言われたことが有る。その人は、会員制の店をやっていて、鉄板焼まではいかなくてもそれに近い演出をしているのだが、彼にとってのエンタメとはハリウッドのアクション映画的なものなのだろう。最近のハリウッドはそうでもないが。

日本料理の変遷を知ると、実にエンタメ要素が濃いことがわかる。が、それはハイコンテクストであり、それなりの教養を必要とするものでもある。だから、知らない人にとってはよくわからない。和歌と似たような性質を持っている気がする。

どちらの面をも取り入れるとなると、どうすればよいのだろうか。というのが、問いとして心に引っかかってきた。で、その一つの解として、今回のイベントを構築してみたというわけだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。今の時点で、こんなやりかたを思いついたので試してみた。というのが正確なところかな。で、こうして書いているのも備忘録の意味が強い。また、少ししたら考えも変わるだろうしね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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