今日のエッセイ-たろう

ググっても出てこない情報も、聞いたらすぐにわかることがある。 2024年3月28日

当店では電話でご予約を承ることが多い。メールでも構わないのだけれど、相互の情報を埋めながらやり取りをするには、電話のほうが短時間で済む。平たく言えば、互いに聞いておきたい情報を確認するなら、電話のほうが早いよねっていう話。

「予約したいです。」「ありがとうございます。日程と人数を教えて下さい」

そんな会話から始まるのだけれど、手慣れた方だと、基本情報をあらかじめ教えてくださることもある。

近年増えているのが、企業接待を個人名で予約されるケース。店側としては特に困ることもないし、当日になって顔見知りのお客様がいらして驚くくらいのもの。企業としては何度もご利用いただいているし、来店される上席の方もある程度親しくなるほどには来店頻度がある。でも、接待の手配を任された担当者は、個人名で予約しようとする。この傾向は、この10年間でずいぶんと増えた。

最近対応したお客様との会話でいくつか判明したことがある。

「ネットで調べたら、接待で使われることが多いらしい。」「同僚に聞いたら、会社で利用したことがあるらしい。」

確かに、いずれも間違っていはいない。間違っていないのだけれど、情報が欠落しているのだ。このお客様が在籍している企業は、月平均で1.5〜2回ほど来店されている。その大半では、支社長が同席されていて、本社の社長が見えることもある。これを知らなかったらしい。後日、担当者が上司に確認したところ、これらのことは当然知っていたし、上司も何度か来店されていたことがわかったそうだ。ぼくらも、名前までは把握していなかったものの何度も見かけたことのある方だった。

とても簡単な話なのだ。上司に聞けばいい。それだけで、企業内のことはある程度知ることができる。担当者がまだ学生だった頃からずっとそこで働いているのだ。経験だって知識だって、企業内のことならば若手社員の及ぶところではない。それに、そんな「内輪の情報」は、ネット上にはないのだ。

「もしかして、接待ですか?」と尋ねることもある。予約の受付をたくさんこなしていると、そういう直感がはたらくようになるのだ。で、ランチタイムの接待だという。「お帰りの予定時間はありますか?」と続けて尋ねる。夕食だったら帰りの新幹線の都合があるかもしれないし、ランチだったら午後の予定が詰まっているかもしれない。12時のご予約で、13時には移動開始していないと次の予定に間に合わない。接待の食事としてはかなりタイトなスケジュールだ。あらかじめ献立や流れを用意しておかなければ間に合わないだろう。

これも先述のケースと同様だ。飲食店に聞けば答えはすぐに出る。「視察の合間にランチ接待を行いたいのだが、時間が短い。先方はうなぎを所望している。良い方法はないか。」これだけのことである。接待であろうと何だろうと、食事会に関する経験も知見も若い担当者の及ぶところではないんだよね。うちの店に限った話じゃないと思う。

一般化されるような知見なら、インターネットで検索すればそれなりに見つけられる。ぼくも、調べ物ではかなりお世話になっているしね。だけど、企業内のことだとか、特定の店のことなんかは、そこにはないのだ。そんな論文などありっこないじゃないか。

ググれば出てくる。というのは、本当に便利な世の中になったよね。お金を払わなければ受講できなかったの授業も、動画で見ることができるようになった。便利になったのは良いんだけど、一般化されない情報までそこにあると錯覚してしまうことがあるらしい。現代史を学ぶことは出来ても、所属している企業がその時代にどんな対応をしたのか、どんな心境だったのかまでは検索不可能だ。けれども、身近な人からたどって聞いてみると、案外簡単にわかることもあるんだよね。

今日も読んでくれてありがとうございます。要は使う側の問題なのだろう。どこをつつけば答えが返ってくるか。それが書籍なのか、インターネットなのか、それとも人に聞くことなのか。情報リテラシーの向上が必要っていうけれど、検索リテラシーも考えなくちゃだね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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