今日のエッセイ-たろう

健康と濃度について考える。蓄積させないという工夫。 2023年6月21日

体に悪いものを食べると、それが蓄積されて健康に影響がある。というのだけれど、本当だろうか。体に悪いのものという表現が良くないか。砂糖や塩もそうだし、旨味調味料もそうだし。極端なことを言えば、毒素だって疑問がある。

気にしているのは、濃度と蓄積の話だ。極端な例だけれど、ふぐやキノコなどの天然毒は、一度に接種する量が一定量を超えると中毒症状を発する。もう少し細かく言うと、研究で解明されている毒素に関しては、中毒量と致死量が設定されている。

1の量を接種すると腹痛やめまいなどの中毒を起こす毒素があったとして、10の量を接種すると生命に影響があるとする。この場合、0.5の量を接種した場合にどうなるのか、だ。基本的には問題ないはずだ。もしかしたら少し具合が悪いと感じることがあるかもしれないけれど、いわゆる中毒症状を発症することはない。では、半年間の摂取量の合計が10だけれど、一度の摂取量は1以下で、なおかつそれぞれの接種は感覚を開けた場合はどうだろう。

人体が代謝できるものであること。という条件が付きであれば、問題はないはずだ。そもそも、中毒量というのは人体の代謝能力を前提にして決められているからだ。体が正常に機能していれば、この程度の毒素は無毒化して排出できるよね。ということ。つまり、物によっては蓄積することがないから、間隔さえ開いていれば接種しても問題ないということになる。

以前、何かのセミナーで「水道水に含まれる塩素が体に悪い」ということを言っていて、その証拠として子犬が肌荒れを起こしたという写真を提示していた。たしか、お風呂に入れたという話だったと思う。周囲の聴講者は「おぉ〜」と声を上げていたけれど、どういう意味だったのだろう。冷静に考えれば、いろいろと疑問が残る。肌に触れたことが原因なのか、それとも日常的に水道水を飲んでいたことが原因なのか。前者であれば、人間と子犬の肌の特性の違いはあるのか。後者だとしたら、消化や代謝能力の差異はどうなっているのか。そもそも、体の大きさが違いすぎる。濃度という観点から考えれば、体液中の塩素濃度が人間と一緒ということはありえないだろう。もしかしたら、子犬の代謝能力を超えていただけかもしれないし、そもそも風呂がストレスだったという可能性も拭いきれない。

旨味調味料は、化学調味料と言われていて、体に悪いという意識が広まってしまっている。そもそも、なぜ「化学」調味料という名前がつけられているかと言うと、世紀の大発見により人類が手に入れた「良いもの」という意味が込められている。それは、純粋な糖や、純粋な塩を手に入れたことと同じ感動だったのだろう。これで、旨味を抽出する手間暇を削減できる。それは、歴史上食品に関わってきた人たちが、甘みを引き出そうとして苦労してきたことと似ている。

中華料理シンドロームという言葉がある。かつて、アメリカで発表された論文で、化学調味料を使うと健康被害があるというものだ。中華料理では化学調味料をよく使うということから、不名誉な名前をつけられてしまったのだ。その後、この論文の内容については完全に否定されているのだけれど、このときのイメージが今でも残っているようである。

実験で問題なのは、料理人じゃなくてもびっくりするほどの量の化学調味料を添加していたことだ。細かい数値は忘れてしまったけれど、例えば味噌汁一杯に旨味調味料の小瓶をまるごと入れてしまうような濃度である。それは確かに、体によくなさそうだと思う。ただ、実際に日常で使用されることはない。塩や砂糖など、他の調味料に置き換えたら分かりやすい。塩も砂糖も適量であれば人体に影響はない。それどころか、塩は不足すると神経伝達機能に異常をきたすし、世の中から糖エネルギーがなくなったら生きていくことができない。一度の摂取量が過剰。接種したものを使い切る前に補充し続けること。が問題なのだ。

旨味調味料も、他の調味料と同様に適切な分量を使っている分には全く問題ない。問題なのは、使い過ぎという一点であって、存在そのものが悪いわけではないのだ。そもそも、旨味調味料は発酵食品そのものだ。漬物や味噌や醤油が美味しいのは、発酵の力によって旨味成分が生成されるからだ。これと同じ要領で作られたのが旨味調味料。

甘すぎるお菓子を食べすぎても、しょっぱすぎるおかずを食べすぎても、ダメ。そういうことだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。困ったことに、人間の味覚というセンサーは思っているほど鋭敏ではない。鋭敏でいるためには訓練が必要なのだ。特に、甘み、塩味、油味に関しては、大量摂取し続けると反応が鈍くなることがわかっている。それでもまだ、しょっぱ過ぎるとか甘すぎるという感覚があるのだけれど、旨味に関しては認知がないらしい。料理人をやっていると、例えば出汁でも「甘みが強すぎる」という表現をすることがある。薄めたほうが美味しくなることを知っている。このあたりの、社会的認知もこれからの課題になりそうだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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