冬になったと感じるのはどんな時? 2023年12月13日

とっくに冬はやってきていたはずなのに、今週は暖かい日が続くらしい。北日本や日本海側は例年通り真冬らしい気温なのだそうだけれど、静岡県は暖かい。ただでさえ温暖な気候なのだから、うっかり春の草花が芽吹いてしまわないかといらぬ心配などしてみる。

もうとっくに冬のはずだ。と思っているのは、なぜだろう。ニュースだったり、SNSだったり、まちの装いが「冬っぽい」アピールをしているからだろうか。アプリか何かで「ハイ、冬が来ましたよ〜」などと通知されても、ちっとも冬だという気はしない。そこまでではなくても、12月は冬であるはずだ、という認識は季節感を無視して冬であると伝えようとしてくる。

ぼくらの季節に対する認識は、想像力の産物。遠くの方から、なにやら冬の神様のようなものがやってきて、ふっと息を吹きかけると木々は赤く色づき、虫たちは声をひそめる。そんな物語の話じゃない。かといって、西高東低の気圧配置であるという事実を知ったからでもない。普段見ている風景が冬らしいモノに変化して、体が寒さに身を縮める。そんな身近な現象を感じて、もしかしたらこれが冬というものらしいと想像するだけだ。

季節というものは、目には見えない。というか、そもそも季節という概念は、自然界に存在しないはずだ。なんとなく、人間の身の回りに起きる気候的な変化に対して名前をつけて区分したに過ぎない。と書くと、なんとも味気ないな。でも、多分そういうことだ。ただちょっと、情緒的なものを含んで名前を与えられている。だから、情緒を感じることで「冬なんだな」と知るのだろう。

季節を感じるのは、明示されない情報の蓄積だ。朝晩が冷え込むとか、寒風に身を縮めるとか、その寒さのお陰でいつも以上に暖かい飲み物が喉を通る瞬間に幸せを感じるようになるとか。すっかり葉の落ちた桜の木や、真っ赤に染まっていて紅葉が散り落ちる様子。いろんな、あいまいな情報が集まって、冬であることを知る。

ただ冬であることを知るための手がかりであるようにも見えるけれど、これらの手がかりは楽しみでもある。輪郭を描くために、薄い線を何度も描くようにして、じんわりと伝わる季節。

情報がクリアになりすぎると、その過程の楽しみが薄れるのかも知れない。ぼんやりした情報だからこそ、ちょっとずつかき集める。学習とか理論ではなく、五感に直接伝わってくる曖昧な情報。こういった類の情報は、例えばビジネスの世界では喜ばれない。もっとクリアに、簡潔にスパッと伝わるものでなければならない。

プレゼンならば、結論から伝えるようにすると良いと言われている。今は冬である。なぜならば、一日の平均気温が何度くらいに下がり、色づいていた紅葉やイチョウの葉が落ちたからだ。

一見明確な伝達方法ではあるけれど、同時になにか大事なものを振り落としてしまっているような気にもなる。もしかしたら、効率化という名前のもとに、大切な情報が消えてしまっていないだろうかと少々心配にもなってくる。

営業の仕事をしていた頃は、結論から伝えるようなフォーマットで話すことが多かった。それが是とされていたから。だけど、ある時からストーリーテリングのような話の展開を意識するようになったんだ。たべものラジオは後者に比重を置く感じかな。論理的にはよくわからないのだけれど、なんとなく「明示されない情報」みたいなものが含まれそうな気がしているから。その分、誤読される余白が生まれて、聞く人によっていろんな解釈が生まれると思うんだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。冬って、人によって、気分によって、いろんな感じ方をするわけで。感じ方に、正解なんて無いわけだ。たべものラジオを聞いて、何を感じて何を思うのか、そういう余白があったほうが、実は豊かになるんじゃないかと妄想している。

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