今日のエッセイ-たろう

利益構造はどうなっているんだろうなぁ。と疑問に思った業界の話。 2025年6月16日

なんでもかんでも自前でやるのは無理がある。そりゃそうだよね。飲食店だからといって、野菜や米を育てて、魚を獲って、醤油や味噌も作って、豆腐も作って、鰹節を作って、なんてことをやっていたら商売として成り立たない。何を購入して、何を自分でやるのか。その線引はそれぞれの判断だけど、物理的なモノを扱う商売なら、100%自前というのはかなり厳しいはず。あるのかな。

無形のものだってそう。自社で開発しているところもあるけれど、基礎研究なんかはアカデミアが担っていることも多い。人文社会科学などの知見だって、自前というよりも別の誰かが学んだことを要約して教えてもらうとか、アドバイスをもらう。ぼくらの時間は有限なのだ。ちょっとずつ得意を持ち込みあって事業を成り立たせている。業務委託というのも、サービスを購入しているのと同じだろう。

大きな企業になると、福利厚生サービスを外部に委託することもある。前職でも、委託先の会社から商品カタログが配られていて、商品やサービスの優遇が受けられるというものがあった。会社が委託しているのだから、委託料を支払っているのだと思う。で、福利厚生というのだから、商品やサービスの優遇にかかる費用も所属企業が負担している。はずだと思っている。じゃないと、「福利厚生」にならないよね。貸借対照表にも、福利厚生費として経常するし。

時々、福利厚生の委託を受けている会社から連絡があって、サービス提供しませんかという提案を受ける。過去に、委託元の企業と直接やりとりをしたことはあって、サービス提供をしたことはあるのだけど、委託先の会社と話がまとまったことはないんだよね。だってさ。サービスの優遇にかかる費用は、サービス提供者の負担だって言うんだもの。

先日も電話がかかってきたんだけど、価格の15%オフでどうかと言われた。初期費用もランニングコストもかかりません、と担当者は言っていたけれど、それってインセンティブ設計が変じゃないかなと思うわけだ。無料で紹介してあげているんだから、そのくらいは当然です。という言い分もあるけれど、本来福利厚生費として委託元の企業に計上されるはずの予算はどこにいっちゃったんだろう。なんだか、すごく違和感がある。

元企業が支払っていないのなら、それって福利厚生じゃないような気もするし。委託費とまとめて委託先に支払っているのであれば、委託先の懐に入っているということになる。委託を受けた会社が「福利厚生を安く提供できます」みたいなことを言っているとしたら、「人のふんどしで相撲を取る」ということわざを地で行く行為。だと思うんだ。

旅行会社もそうなんだけど、飲食店に対して気軽に15%だとか20%値引きしろっていうのは、ちょっと無茶なんだよね。それこそ、団体客とかで、まとまった売上になるようなら可能性は無くはないけれど、そのモデルだって一昔以上前のこと。すっごく雑だけど、一般的な飲食店の利益構造は、食材原価に3〜4割、人件費などの固定費で3〜4割、で残りの2〜3割が利益。これ、小売業と同じくらいかな。この利益のうちの半分以上をもらおうっていうんだから、そりゃ厳しい。ということで丁重にお断りするのが常となっている。そのうち、拒否反応を示すようになるかもしれない。

頑張って対応している飲食店もあるよ。ただ、その場合は、原価と固定費を合わせても5割以下に抑えるようにするパターンが多いかな。そう、簡単な話で販売価格を上げるんだ。ほら、観光地とかで経験あるでしょう。この内容でこの価格?という違和感。観光地だから地代が高いのかなっていうこともあるけれど、広告やら集客にコストがかかるからそうなるし、バックマージンを支払わなくちゃいけないからね。いや、もちろんそうじゃない企業もあるんだけど、この業界で直接聞く限りはこのパターンが多いんだ。

だからね。福利厚生委託会社はぼくにこう言うのだ。福利厚生割引のお客様のときは、少し原価下げてもらって構わない。つまり、クオリティを下げろと。言いたいことはわかるんだけど、ぼくらも信用商売だからねぇ。せっかく行ったのに、あそこは価格(元値)の割に大したことなかった。なんて噂が広がったら、今後の商売に悪い影響が出る。

一度、旅行会社がそれを無断でやって揉めたことがあるんだよ。旅行客には、うちに注文した単価よりも1000円以上高く伝えていたのね。配膳していたら、「この価格でこれ?」という声が聞こえてきたので、直接聞いてみた。で、正しい価格を伝えたら、「その価格でこれだったらお得よね」というお客様の反応。そしたら、旅行担当者が「なんでバラすんですか!」って激昂したのである。もちろん、それ以来その会社からの注文は全部断っている。

営利企業である以上は利益を得ることが重要。それは当たり前なんだけど、利益のために犠牲になるものが何であるか、それは犠牲になって良いものだろうか、ということを考えなくちゃいけない。GDP(GNP)こそが最優先という時代が、何をもたらしたのか。日本もそうだけど、徹底的に利益優先を突き詰めたアメリカの文化基盤がどうなったのか。産業そのものがどうなったのか。そういう事例を見て、少し勉強したら良いと思うんだよね。社会主義とか資本主義とかそういう話じゃなくてさ。いま、自分が携わっている企業、産業、社会のことをちょっと考えてみる。そういう姿勢が必要だろうし、そうでない企業は1世紀もしないうちに淘汰される気がする。

今日も読んでいただきありがとうございます。お金の流れがどうなっているのか、実際のところはわからないんだけどね。直接聞いてみたら話を濁されちゃった。営業担当者が知らないっていうこともあるんだろうけどさ。ウェブサイトみると、めっちゃクリーンな会社っぽいんだけど、どうなんだろうな。よくわからん。少なくとも、その会社がサイトで語っている「社会貢献」や「三方よし」が実行されているようには、ぼくには思えないんだよなぁ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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