今日のエッセイ-たろう

効率化中毒が行き着く先にあるアタリマエ。 2024年11月29日

合理的であるとか効率的であるということを考える時、その対象範囲をどこまでに設定するかが大切だ。というのは、昨日の続きの話。

昨日は漁業の話だったのだけれど、組織でも同じことが言える。というか、そのほうがわかりやすい。

例えば、厨房で調理をしているとして、その人にとって効率的であるということを考えてみる。次々と来るオーダー、次の料理の準備、翌日の仕込みなど様々な業務をこなしていくわけだ。個人としての効率性を考えて行動している。ところが、店舗というのは一人で運営されているわけではない。料理の配膳もあるし、ドリンクオーダーもあるし、お客様から呼ばれるし、洗い物もしなければならないし、会計もある。複数の人間が複数の業務をこなしている。

個人ではなく店舗としての効率を考えると、調理師の判断は変わるはず。ドリンクを準備することと、調理すること、洗い物をすること、などの業務を天秤にかけて、優先順位を決めていく。全てではないけれど、その瞬間には調理の手を止めてでもドリンクを作ったほうが良いこともあるだろうし、呼ばれたテーブルに伺うほうが良いこともある。

担当が分かれているから任せれば良い。という判断もあるかもしれないけれど、今度はお客様も含めた「人の集まり」として考えると、ホールの専門家でなくてもテーブルに来てドリンクのオーダーを取ってほしいとなるだろう。料理の提供が遅れるようならホールスタッフが盛り付けの手伝いをしたって構わないわけだ。

効率化というのは、どの範囲で考えるかによってその瞬間の行動が変わるもの。というのは、ある人にとってはアタリマエのことだけれど、別のある人にとってはアタリマエではないことらしい。

よく聞くのは「担当じゃないから」という声。「わからない」とか「手を出したらいけない」という気持ちがあるらしい。だから、普段から越境することがアタリマエの環境を作っておく必要があるのだろう。

越境するときには、自分の専門外であってもキチンと意見を言うことが必要だと思っている。専門家ではないから、敵対的に意見を言うのは無理筋であるけれど、体験すればそれなりに何かしら気がつくことがある。自分の専門分野との差分などが目につくこともあるだろう。その場合に、担当者の意見や慣習を尊重しながらも別の視点をもって意見を述べることが肝要なのではないかと思うのだ。

意見というのが言いづらかったら、質問という形をとってもいい。

食のサプライチェーンということを考えたとして、互いの領域に手を出さないで協力し合うというのは、どうにも非効率に見える。誰かが越境して、専門家ではないという専門家になって意見を混ぜなくちゃ。

効率化中毒の人は、効率化を突き詰めていった結果、広範囲での効率化を求めるようになるのじゃないかと思っている。急がば回れということわざなんかも、実は広範囲での効率化を言い表しているのじゃないかと勘ぐっているくらいだ。

3年ほど参加させてもらっている「SKS Japan」で提唱されている「Beyond Boader」も「co-Creation」も、同じことを言っているのかもしれない。自分の専門領域ではなくても、ちゃんと学んで、ちゃんと自分の頭で考えて、ちゃんと意見を交わすこと。手を出してみること。最初の一歩はここからなのだろうと思う。

ぼくらは飲食店として流通や一次産業に対して意見を述べる。学ぶし考えるし、体験もする。それはバトルではなくてお互いに越境し合うことで、融合点が生まれて、その領域が結合する。数学でいうところの「AかつB」の部分だ。

イノベーションという言葉を生み出したシュンペーターによると、イノベーションには新結合が重要だという。いや、確かはじめは新結合と言っていたんじゃなかったかな。あとになってイノベーションという言葉を当てはめたような気がしている。記憶違いかもしれないが。とにかく、新結合が大切で、それはアイデアや技術やモノやサービスだけじゃなくて、人と人との領域にも当てはまるんじゃないかと思うのだ。そして、その領域で生まれたものの中からイノベーティブなモノが生まれてくるように思える。

今日も読んでいただきありがとうございます。延長された表現型だっけ?どこまでをその生物の生態と捉えるかみたいないの。身体性の拡張というのとか。そいうのと似ている気がするよね。どこまでを身内と捉えるか。考慮の範囲にいれるか。期間もそう。問いが変わると、最適解もかわっちゃうからね。なかなか難しいもんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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