今日のエッセイ-たろう

味と感情とフードロス 2022年9月29日

最近、びっくりしたことがあってね。こんなことで自分がこんなにもイライラするのかと思ったんだ。家族でショッピングモールに行った時のことなんだけど、なんだか面白くなっちゃって。妻と一緒に笑っちゃった。こんな些細なことでねぇ。

接客が悪いとか、なにか粗相があったとか、そういうことではないのよ。もう、ラーメンがまずくてさ。

夕方ころになって、おなかが減ったねってことになって、それでフードコートに行ったの。こう言ったら怒られるかもしれないけれど、そんなに期待値が高いわけじゃないじゃない。こだわりの一品が出てくるとか、一流レストランのような味だとか。そういうのは期待していないわけだ。なんなら、ちょっとくらいは味がアレでも、まぁ問題ない。

モノの良し悪しって、期待値に対して相対的に決まるもんだと思っているんだよね。で、期待値っていうのはどうやって決まっているかというと、環境だったり、情報だったり、設定されている金額だったりする。めちゃくちゃ美味いという訳じゃないけれど、この金額だったら十分なクオリティだよね、とか。逆に、あんまりにも期待を持たせるような広告だと、期待ほどじゃなかったという残念な気分になる。そんな感じだと思うんだ。

フードコートって、あんまりハイクオリティーな食事を期待するところじゃないと思うんだ。それなりに美味しければOK!みたいな感じ。それに、お腹も減っていたらかね。ほら空腹は最高の調味料って言うじゃん。お腹へっている時はおいしく感じるものだし。なのに食べきれなかった。家族は他のお店のものを食べたから気にしてなかったんだけどね。ぼくの箸が全然進まないのが不思議だったらしくて、娘も妻もちょっとずつ味見したのよ。そしたら、もういらないって。

仕事柄、食に関しては少々うるさくなりがち。と思われているんだけど、実はそうでもない。そりゃ料亭とか料理がメインの宿に行ったら、ぼくも勉強の意識があるから真剣に食べるよ。だけど、カップラーメンだって食べるし、カップ入りの納豆だって食べる。たまにはコンビニ弁当だって食べる。それで不満はないわけ。

なんだろうなあ。細かいこと言っちゃうと、妙な苦味と作為的な香り付けと不自然な甘味料、これが原因だと思うんだけど。どうなんだろうな。

面白かったのは、お腹が減っていたのに食べられなくて、その割に空腹感だけはおさまってしまって、だから他のものを食べようにも食べられないっていう状況に、変にイライラしている自分。なんだこれ?こんなにイライラするもんなんだなって。

まぁ、ぼくらの体調とか普段の食生活とかも影響するだろうし、その日の従業員だって慣れていない人かもしれないし、別にその店が悪いわけじゃないと思うんだけどね。人間って、食べ物でこんなに感情が振れるものなんだね。というのが、とてもおもしろかった。

で、全然違うところに思考が飛んじゃったんだけどさ。フードロス問題ね。少し前に、食べ残しゼロ運動っていうのがあったよね。注文しすぎないこと。食べ残さないこと。そういうことを、呼びかけたのは県だったか国だったか。確かに、注文しすぎると食べ残しに繋がるもんね。

もうひとつ、美味しくないと食べ残しに繋がるっていう視点もあるかもしれないって思ったんだ。口に合わないとか。

ぼくらの先輩たちは、よく洗い場に顔を出していた。何しているかって言うと、何が残っているのかを見るためにね。食べ残しは、料理人にとって大切な指標のひとつなんだ。味はどうか、量は適切か、といったことを見る為のね。美味しくない料理を作ってしまったということは、食材を無駄にしてしまったことと等しい。ある親方がそんなことを言っていた。聞いた時はわからなかったけれど、今はよくわかる。いろんな側面を総合的に見ると、確かに食材を無駄にしてしまったように見える。生でかじった時に美味しい食材を、なんで調理して不味くしてるんだって、そんなことも言ってたな。いや、まかないを作った時に叱られたんだった。

今日も読んでくれてありがとうございます。美味しいって正義だな。だけど、おいしいって感覚はとても主観的だもんね。○○さんにとっての美味しいは、他の人にとっては違うかもしれない。ここが難しいところなんだよなあ。画一的にするには、難易度が高すぎる。多様化せざるをえない。多様化した中で、どうやってひとりひとりの口にあうようにして、食品ロスを削減するかって。料理人目線でフードロスを解決するのも一筋縄ではいかないもんだ。とりあえず、当店厨房におけるKPIのひとつは、ゴミの総量というところだけは変えないでおこう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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