今日のエッセイ-たろう

学びのデザイン② 2025年4月4日

昨日の続きです。

国語や社会の授業は、生徒に問いを考えさせる授業が多かった。教科書にある文章のある部分を読んでみて、感じたことや疑問に思ったこと、今風に言えば深堀りしてみたいことはなにか、を個人追求の時間で書き出してみる。小集団で意見交換して、みんなで考えてみたいテーマを選ぶ。そして、クラス全体で一つのテーマをピックアップして、みんなで考えてみようというもの。

自分の問いが採用された人は、俄然やる気になるし、なんだか誇らしい気持ちにもなる。授業の中でも、自然と発言しようという意欲も高まる。それに、問いを選ばれなかった人も「それって、いいかも」とか「言われてみれば確かに不思議」などと、共感しているから楽しい気持ちで一緒に考えることが出来る。自分自身で問いを立ててそれに取り組む。やってみるとわかるのだけど、能動的な学びは楽しいものだ。

このスタイル。1年生のときからずっと繰り返されていた。細かな違いはいくつもあったらしいのだけれど、ぼくらにはわからない。言葉は悪いけれど、ぼくらは実験対象で、先生たちが睡眠時間を削って考えた教育プログラムがどのように機能するかだったり、理想的とされる教育を実装する方法を探ったりという3年間である。

ぼくらが部活動に励んでいる頃、顧問の先生たちは部活動の場に居合わせることは少なかった。日が短くなるとよく分かるのだけれど、下校の際には薄暗がりの中で明々と電灯をともした部屋があることに気がつく。教員室はもちろん、教科室や図書室にも人がいた。ある時、なにかの用事で21時ころに学校の前を通ったことがあったのだけれど、やっぱり教科室には明かりが灯っていた。

学びの内容。そこに達するためのプロセス。入口となる問い。それらをいくつも用意しては、授業という50分の時間を組み上げていく。そうして出来たプログラムは、同僚の先生が生徒役になって繰り返し練り上げられていく。何度も繰り返して、これだというものを作ったら、今度はぼくらを相手に本番だ。

冒頭で紹介した通り、ぼくらは自分たちで問いを選んだつもりだったけれど、すでに問いはある程度まで決められていたのだ。まぁ、3年間も同じパターンを繰り返しているものだから、ぼくらも察しが良くなってきて、どんな問いが採用されるのか読めるようになってきちゃったんだけどね。その頃には、どんな問いでも探求する行為そのものが楽しくなっちゃっているから、出来レースでもなんでも構わないわけ。

要は、能動的であること。それってホントにどうなっているんだろう。不思議だなあ。分かったら面白そうだな。という感情になることが大切なんだと思う。その為のプロセスを、先生たちが事前にしっかり準備していたというだけのこと。

ぼくの私見では、生徒が芯を食った問いを立てるのは難しいと思っている。最近の総合学習スタイルで、先生と生徒がフラットにディスカッションすることを目標にしているらしいのだけれど、それもかなり難しいと思う。なぜかといえば、知識量の差がありすぎるからだ。素朴な疑問も大切だけど、限られた時間で学びを得るためには質の高い問いが必要だけど、それには一定の知見が求められる。ディスカッションをするのも、互いに同程度の知見が求められる。

だから、知見のある先生が指導者として、筋道を導いていく。指導者という文字通りに。

初期段階の問いがあって、それを深めていくと、その過程で新たな知識や気付きを得ることがある。知識や学びが増えていくに従って、また別の問いが現れる。探求するうちに、また新たな学びと問いにたどり着く。思い返せば、その繰り返しだったような気がする。そうなるように学びがデザインされていたのだ。

ぼくは、詰め込み教育を否定していない。というのも、ある程度までは知識を詰め込まなければならない段階があると思うからだ。巨人の方に乗ると表現されるように、既知の事象をイチイチ発見していったのでは時間がかかりすぎる。ただ、詰め込むにしてもやり方があるというものだ。旅行カバンだって、詰め込み方次第でうまく収まるし、うまく収まったほうが後で使いやすい。

テストというのは、学内でも入試でも、それまでに学んだことの一部を抜粋して調査するものだ。食品の輸入チェックでも、全部じゃなくて一部を抜き出すのと同じこと。ちゃんと詰め込めば、どこをどう抜き出しても良いはず。本質的にはそういうことなんだと思う。

ぼくは、学内学力でいえばちょうど真ん中くらい。決して高い方ではなかったけれど、それでも高校入試で困った記憶がないんだ。それは、ぼくが頑張って勉強したからじゃなくて、先生たちが学びをデザインした3年間あってのことだ。感謝感謝である。

今日も読んでいただきありがとうございます。あまり意識してなかったんだけど、実はたべものラジオってこの頃のフォーマットに近いんだよね。ぼくが勝手に不思議がっている問いをみんなに共有するでしょ。それだけで1話分くらい時間を使っている。で、途中で問いを深めるために必要そうな材料としての知識を紹介していって、そのうちにまた別の問いが現れる。これなんだろうねって言いながら、また調べて紹介する。最終的には、聞いてくれた人も、一緒に問いを考察できるくらいの知識を得て、ぼくと一緒に考えてくれる。そう考えると、たべものラジオには問いの結論が無いんだよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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