今日のエッセイ-たろう

専門書籍が存在するという凄さ 2023年1月30日

食べ物に関する歴史について書かれた書物は、結構たくさんある。人類学者の先行研究があって、たくさんの研究者によって論文や書籍が世の中に誕生した。その労力を想像すると、ただただ脱帽するばかり。

歴史と一言で言ってしまうけれど、そのときに起きた事象を書き並べるだけではないのだ。そこには、必ず「なぜ」「どうして」という疑問符がつきまとう。社会情勢や文化が違う国、というのは現代でも見られるのだけれど、過去に遡るとその理解が難しくなる。

例えば、日本の京都の現在の文化や風習。その中でも、伝統的だとされているもの。現在の生活の中でこれを見出すことはある程度は出来る。実は、それを正確に把握すること事態が大変なことなのだけれど。これが、過去のことになると難易度はかなり高くなる。なにしろ、伝統だと思われているものごとは、実は意外と歴史が浅いものもある。そんなものはなかった、などという驚きに出会うことはよくあることなのだ。

食べ物、食文化というジャンルに絞っていくと、政治などの歴史研究に比べて更に難しくなるようだ。というのも、政治であればある程度の大まかな流れは記述がまとまっている。信憑性はとりあえず後から考えるとしても、古代であれば古事記や日本書紀、魏志倭人伝が参考になるし、信長公記を見れば戦国時代の中心政治についてはおおよそのことが見える。太閤記や江戸幕府の記録などとつなぎ合わせれば、社会の大きな流れをつかむことが出来る。こうした、研究の足がかりとなる資料が残されていて「まとまっている」というのは、実はありがたいことなのだそうだ。

食べ物や食文化の研究をしようと思うと、まとまった書籍はほとんどないという事実に直面する。江戸中期以降であれば、それなりに料理に関する書物はあるのだけれど、その殆どはレシピ本やグルメガイドだ。豆腐がいつ頃日本に伝えられて、どの様に食されていて、何の影響を受けて社会に受け入れられていったのか。受け入れられていく過程はどのようなものだったのか。そもそも、いつどこで豆腐が誕生したのだろうか。こうしたことについて、ある程度でも流れがまとめられている歴史的な書物は無いに等しいのである。

では、どうやって探っていくのか。それは、手当たり次第に読み漁ることだ。その中でも公家や寺の日記類は比較的参考にしやすい。その日、何を食べたのかや、誰かにもらったなどということが記されていることがある。あるいは手紙や、歌なども資料となるし、枕草子のような随筆も源氏物語のような小説も資料となる。こうしたものを、とにかく片っ端から読んで、関連しそうなことをピックアップしていく。

これだけでも気が遠くなるような作業だと思う。で、なんとか大まかな流れをつかんだところで、やっと研究がスタートするというのだ。一見関連しそうもないことは、読み飛ばされているのだけれど、背景を研究するにあたって、実は読み飛ばしたり記憶から抜け落ちた部分が重要な情報を持っている場合もある。だから、何度と無く同じ資料を読むのだ。

研究されている方の手記を読んで、それからぼくの推測も交えて手順を書き出してみた。とんでもない労力があって、やっと1冊にまとめられている。これまでに配信してきたシリーズでは、茶、米、スシ、ジャガイモ、日本料理、日本酒、ビールは、偉大な先人たちが書籍というまとまった形に情報をおさめてくれている。だから、そこからこぼれ落ちたというか、ぼくが理解できなかった部分については、補足として勉強すれば良い。そういう意味では、やりやすいのである。まぁ、研究文献が多すぎて整理がつかないこともままあるのだけれど。

これに対して、豆腐やふぐ、梅干しに関しては資料がとても少ない。全く無い、というほどではないけれど、他のものに比べて圧倒的に少ない。だから、大筋の流れをつかむために資料を読み漁るという途方もない作業をすることになるのである。さすがに、すべての文献に当たることは時間的に難しいので、それっぽい資料に見当をつけて読んで見るという程度のことだ。インターネットのおかげで、素人でもそこそこの数の論文にアクセスできるのはとてもありがたい。

こうして、人文学的アプローチというものを素人なりに想像してみると、ふつふつと尊敬の念が湧いてくる。もちろん、歴史だけではなくて、現在社会のあちこちでフィールドワークが行われていて、書物に現れないような各地の伝承や風習から情報を集めている。スッゲーな。である。ぼくなんぞは、こうした研究の面白そうなところだけをピックアップして、独自の視点で疑問を見出して、再解釈をしているに過ぎない。二次創作も良いところだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。最近、中央アジアや西アジアの歴史と、その他の社会との繋がりについてざっくり勉強した。中学高校で使用される世界史の参考資料集を読みまくっている。実に、よくまとめられているし、とてもおもしろく勉強させてもらっている。これだけのことを、わかりやすくまとめるというのは並大抵の努力と才能ではないのだろう。で、今日言いたかったことはね。「こんな内容学生時代に習ったっけな」である。とんでもなく優秀な資料があるのに、どうやらぼくは、長い間その存在を無視してきたようだ。なんともったいない。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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