今日のエッセイ-たろう

情報を食べる。物語を味わう。ぼくらの味覚と感受性。 2023年11月17日

人は情報を食べている。と、誰かが言っていたな。その通りかも知れない。なんとなく否定的なニュアンスで聞いたような気がするんだけど、もう誰が言っていたのかも忘れたくらいだから、定かではない。

自分の知覚よりも、どこかの誰かがまとめた情報を信じてしまう。振り回されてしまう。という意味であったのかもしれない。自分にとって心地よいかどうかではなく、有名な人が言っていたからきっと良いはずだ。そういう意味ではちょっと寂しさがあるのかもしれない。

肉のこの部分はこんな感じで、この様にすると旨い。で、こっちの部分は違う特徴があって、あんな料理に合う。なんてことを紹介されると、実にうまそうで買いたくなるという人も多い。テレビショッピングなどがこれに当たるのかも知れない。これも「情報を食べている」と言い換えられるのだろうか。だとするならば、批判的な響きは薄れそうだ。なにしろ、世の中の多くの商品やサービスはそのようにして伝わるし、価値を感じるからだ。

ぼくの感覚では「人は物語を味わう」という方がしっくりくる。

美味しいモンブラン。

地元掛川の豊かな山が育み、◯◯さんが丁寧に丁寧に世話をして出来た上質な和栗を材料に、地元を愛する洋菓子の職人が何度も試行錯誤を重ねて作ったモンブラン。

文字数が違いすぎて、ちょっと卑怯な気がするのだけれど、ぼくならば心を惹かれるのは後者だな。自然環境とか、クリを育てるのに関わった農家さんの物語とか、洋菓子職人さんの物語とか。こういうのが、味だけじゃない価値を付与する。

ここに、歴史的な物語も追加されると、もっと興味を惹かれるかもしれない。

実は掛川のクリって歴史が長くてね。室町時代の公家、山科言継(やましなときつぐ)の記録にも登場するくらいだ。「各地の荘園から作物が届けられるのだが、今年はイマイチだなあ。けれども、遠江西郷荘のクリは別格に旨い。」といったことが書き残されている。500年前には、既に掛川のクリは評価が高かったのだ。

権威とかブランドにもなってしまうかもしれないけど、長年愛されてきたってことは「それだけ多くの人に評価され続けてきた」という証。そして、長い間ブレない品質の高さは、この先もブレないだろうことを担保してくれる。

改めてこんなことを書かなくても、たべものラジオを聞いてくださっている方にとっては体感済みのことなのかもしれない。普段当たり前のように食べているご飯や味噌汁、ジャガイモもみんな、なんだか今までよりも愛おしく思えるようになったという声を聞くことがある。日本の食卓に定着するまでに辿った紆余曲折を思うと、ひとつひとつが特別なモノに見えるのだ。

手作りと機械生産を対比する時、よく手編みのセーターが例に上がる。品質もコストも、多くの場合は機械生産に軍配が上がるだろう。けれども、手編みのセーターには手編みの良さが有る。なんだかよくわからない情緒みたいなもの。どこかの誰かが、そのセーターを作るためだけに費やした時間。向き合った気持ち。物理的には現れないものを「妄想」して、そこに立ち上がる物語を味わっているのだ。暖かさには違いが無いが、ぬくもりは違う。受け取る人の感性によって、変化するものなのだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。物語を味わう時、その物語があからさまに広告として発信されていると、ちょっと興ざめしてしまう。そうじゃないんだろうな。物語は、発信者のものじゃない。受信者のもの。どう受け止めるか、解釈するかの自由があるから良いと感じられるのかもしれない。こう感じてください、って言われると興ざめするんだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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