今日のエッセイ-たろう

文化財の保存と活用を考える前に。2022年7月19日

最近、文化財保存活用計画策定委員会なる会合に招かれた。2年間の計画委員会で、これから検討を重ねていくわけだ。文化財の活用に関して、言いたいことは山ほどある。けれども、文化財とはなんぞやという話から始めなければならない。と、思っている。

一般的に文化財というのは、重要文化財に指定されるような建物や景観に対して使われることが多い。これだけで、ホントに良いのかな。とは思うのよね。モノであることはわかりやすいんだけどさ。文化ってそれだけじゃないよね。むしろ、文化ってカタチにならないことの方が多い気がするんだ。お茶の産地としては、お茶を煎るときの香りなんかも、ぼくらの記憶の中には深く定着しているんだからさ。

カタチのあるものでは、街並みもその一つかな。中山道の奈良井宿は、江戸時代の景観を色濃く残した街並みだ。これが、観光資源にもなっているし、貴重な文化財であることは間違いない。江戸時代には当たり前の空間で、これと同じような景色は日本中の至る所にあったんだよね。街道沿いの宿駅は、もうほとんど全部がね。ただ、色んな事情で変化したし、残るところもあったというだけのことだ。

それを、後世の人達がどのように見せるかで文化財になったかどうかに過ぎない。と言ったら叱られるかな。実際、偶然残ったというのがしっくり来るんだけどどうなんだろう。ヨーロッパなんかを見ても、たまたま石造りが基本の文化だったから、偶然残ったという見方もできるじゃん。木造だったら、とっくに朽ちているという可能性もあるんだから。

時間が文化財にする。これもあるよね。長く残ったからこそ、文化財になる。それは、時間の風化に耐えたという価値。カタチがあっても無形であっても、それは同じこと。そう考えると、今ある昭和の商店街の街並みは、将来文化財になる可能性を秘めている。シャッター街だとしても、シャッター街という価値が生まれる日が来るかもしれない。一見ムチャクチャだけど、時間の風化に耐えることが出来れば可能性はあると思うんだよね。

今、日本全国でシャッター街の町おこしが行われている。数十年前にも、やっぱり似たようなことが起きているんだ。古い街並みを壊して、近代的な商店街に作り変える。その過程で、道幅は広げられて建物も最新のものに変化した。そのおかげで、今町おこしに取り組んでいる人たちが悔しがっている。というのも、街並み改造よりも前の姿を残していてくれたら、それだけで味わい深い商店街になったのにってね。当時の感覚と、現代の感覚をよーく照らし合わせてみると、結局同じことをやっているんだよ。

今、城下町風のまちづくりをやったところで、それは近代的な建物なんだ。道幅はとても広い。彦根城のすぐ近くの道は、見事に城下町風のまちづくりを行ったけれど、歩道も車道もとんでもなく広いのね。とても現代的。良し悪しはさておき、これが現時点で文化財になることはない。実際、人の散策という目線で考えるととても非合理的なまちづくりに見える。

今の時点で、どうか。この判断基準で町をいじくり回すのは、後々の文化財としてはあまりよろしくない。むしろ、触らずに残しておいたほうがやりやすいという側面もある。という話になりそうなんだけど、それも時間の経過次第かな。

大正ロマン感じる街並みは、100年という時間が作り出したものだ。昭和の街並みも一緒。結局のところ、いつの時代を保存しておくかって話になるよね。だとしたら、文化財になるタイミングがずれ込むってだけの話。なるべく早くフリーズさせれば、その時が早くやってくるってことになる。

有形の場合はそうなるね。一方で、文化は変化と継続の複合的なものだと捉えることも出来る。すでに過去シリーズで話した通り、変化しまくった結果文化になったものもある。スシも梅干しも初期のカタチではないのだよ。それでも100年くらいは変化が少ないから文化財のように感じているけれど、もっと長い尺度で見ればメチャクチャ変わってるしね。

変化したこと。その物語もまた文化財と言えるかもしれない。今なぜこのような姿になっているのか。それを可視化することで、見えなかったものが文化財としての価値を生むんじゃないかとも思うんだ。時代に合わせて容赦なく変化し続ける。過去の破壊だって遠慮なく行う。ただ、その変化の経緯と意志を残す。そうすることで、物語が可視化されやすくなる。可視化されれば、伝聞で伝わって変化という文化が定着する。ややこしいけれど、変化という動名詞が定着するのだ。とも言いかえられる。

文化財という言葉の定義は、その保存と活用を考える行政区ごとに自由に設定して良いことになっている。だから、掛川市の委員会ではそこから始めようという話になったんだ。これはとても面白い。匂いも文化財になるのだ。お茶を飲むという習慣もしかり。

日本の文化を、コンテンツとして面白がってくれる人は世界中にたくさんいる。近年ではそれが、増加傾向にあるという。そういう時期だからこそ、改めて自分たちの文化というものを見直すよい機会なんじゃないかな。よくあるでしょ。その良さに気がついていないのは当事者だけって。

もっと外の世界を観察しなくちゃね。物理的な外と、時間的な外。相対的に、自分たちが見えてくるって寸法だ。

今日も読んでくれてありがとうございます。天文学の世界では、地球というものを理解するために外の星を観察するんだって。外がわかると、自分たちがわかる。おんなじことだよね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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