今日のエッセイ-たろう

昆布出汁からSDG'sまで 2022年8月12日

昆布出汁の正しい取り方。という記事を見かけた。ちょっと納得いかないんだよなあ。これが正解って言われると、反射的に反発したくなる。いかんね。ただひねくれているだけだ。正解っていう言葉に敏感に反応し過ぎかな。

それはさておき、やっぱり腑に落ちないのだ。それはなぜか。一通りしか提示されていないからだ。たった一通りのやり方が正解だなんてことは無いのだ。算数だったら、1たす1は2ということになるのだけど、ことは数学の世界。そんなに簡素化してしまったらおかしなことになると思うんだよね。付帯条件を全部カットしてしまっている。

■レシピがふわっとしているわけ

昆布出汁の場合に考えられるシチュエーションはいくつあるかな。出汁を使ってどんな料理を作りたいのかという場合わけがあるね。鰹節の合わせ出汁にするのか、昆布出汁単体で使うのか。それから、煮物なのか吸い物なのかお浸しの汁なのか、それによって変化する。未来方向だけじゃないね。昆布の種類とか、気温とか水の質とかそういう条件も加味するだろう。だから、良心的なレシピ本ほど、数字がぼやっとしてる。

たまに、正確な数値を出すべきだ、と言われるのだけど。それをすると、情報量が多すぎて人間の側が処理できないのだ。昆布出汁だけで100パターンありますよって言われたら、そもそも料理をする気が失せるだろう。だから、いろんなパターンを簡素化させてざっくりとした公式っぽいものにする。そうすると、バッファが生まれるのである。

ということで、正解という言葉に引っかかっただけだったね。やっぱり。これを基本形として、他にも無数のバリエーションがあるから参考にしてねってくらいのもの。基本という言葉も誤解されやすいからなあ。ぼくの解釈だと、上記のとおりになる。無数のバリエーションをふわっと丸めたもの。無数のバリエーションに派生するために、覚えやすいカタチ。ま、算数だね。数学や物理や科学を勉強するためには算数をやってからのほうが良いでしょ。数学を勉強していったら、算数で習ったことの何割かは「実は違った」って感じる。嘘なんかじゃなくて、ふんわりと概略をつかむためにわざと誤差に目をつぶっている。そういうこともあるように感じている。初めから精緻な数字を示すというのは、小学生にいきなり高校数学を教えるようなものかもしれないね。

■出し殻の昆布を活用する

そうだ。昆布出汁のバリエーションについて、なおざりにされていることがある。だし昆布の使い道だ。だし昆布っていうくらいだから、出汁がメイン。そりゃそうだ。だから、出汁を取ったあとの昆布はカスの扱い。正しい。けれど、これを捨てるのかって話になると思うんだ。いや、食べ物なんだから食べたら良いじゃん。でしょ?

でね。科学的には60℃の湯で60分で、ほぼすべての昆布の成分が水に溶け出すことがわかっている。これやっちゃうと、昆布がゴミになる。だって、味が残っていないんだもん。味がしなくても良ければもちろん食べられるし、水溶性食物繊維としても優秀。だけど、どうせなら昆布の旨味があったほうが美味しいよね。

ということで、出汁とカスの両立を狙う。例えば、昆布出汁を取る時に使う昆布の量を倍にする。もったいないかもしれないけれど、多い分だけ出汁は濃くなるじゃん。そしたら、昆布に味を残すことが出来るんだよね。なんなら時間も短くなるし。で、昆布は別にして煮物に入れるとか、佃煮にするとかフリカケにするとか、まぁいろいろとやりようがあるわけ。

■SDG’sを考える

出汁と出し殻の組み合わせ。これを拡大解釈すると、実は世の中にたくさんある。ホントにそのカス捨てちゃってて良いですか?ってね。初めから「カスも活用する」という前提で作れば、ゴミは減るはずなんだけどやっていない。ゴミが減るはずだっていうのは、生産者自身が知っている。だけど、利益構造を考えるとそうせざるをえないということらしいのよ。

豆腐を作れば、当然豆乳を絞ったあとにはオカラが出来る。中年以上の人たちは気がついているかもしれないけれど、一昔前に比べて圧倒的にオカラが減ったよね。売っているところが少ない。あんなにたくさんの豆腐や豆乳が売られているのにオカラが少ない。バランスがおかしいでしょう。オカラだと売れないのでお金にならないんだってさ。だったら、少しでも豆乳を濃くしたり多くしたりすることで、豆腐を作って販売したほうが良い。豆腐屋さんのブログを読んだら、飼料に回していたらしいのね。だけど、ほとんど栄養が残っていないから、最近は廃棄するのが基本になっちゃったって。

100:0を作ると、こうなっちゃんだろうね。酒粕なんかは、比較的上手に使われている。吟醸が流行っているおかげで、酒粕に味を残さざるをえない。認知度は上がりきっていないけど、それでも酒粕の利活用にも力を入れている。

そういえば、醤油のカスってどうしているんだろうね。醤油粕に野菜を漬けたら立派な漬物になるんだから、見えないところでちゃんと活用されているんだろうか。ちょっと聞きかじった程度だけど、醤油粕って直接食べるのには向かないんだって言ってたな。捨てるのが前提だから、籾殻とかの異物がいろいろ混ざってるんだってさ。ちゃんと使う前提で作ればよいのは生産者もわかっている。だけど、そこに手をかけてコストが上がると醤油の価格があがってしまう。売れなくなる。ということらしいのよ。その割に、醤油粕の使い道が認知されていないもんだから、現状に辿り着く。そりゃそうなるよなあ。

今日も読んでくれてありがとうございます。食以外にも似たような構造のものはあるのかな。昆布のことから連想しちゃったから、食品のことしか思いつかなかったんだけど。でも、ありそうじゃない?効率化っていうのも、視点を変えなくちゃいけないかもしれないなあ。出汁を100%という効率化じゃなくて、両方を活かすという視点に。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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