今日のエッセイ-たろう

生活文化や技術は、その地の気候や地形が作り出した。 2024年2月5日

地球上の多くの人が気にかけているだろう、地球温暖化。数字で見なくたって、個人的な記憶の中でもはっきりわかる。小学生の頃の記憶や、20代の頃の記憶を思い返してみると、やっぱり今の方が暖かい気がするのだ。夏はより暑く、寒い日はもっと寒く。というのが、温暖化時代の特徴らしい。ざっくりと日本の歴史を振り返るだけでも、そんなことが見えてくる。

気候とか、その土地の特徴とか。そういったものが、社会の仕組みや生活に大きく影響してきた。この数年で知ったことである。学生時代は歴史が得意というわけでも無かったし、30年近くも前のことだからおぼろげな記憶なのだけれど、自然環境のことは触れられていなかったような気がするな。大きな飢饉とその対応くらいは習ったかな。

地球全体の気候変動もあれば、局所的な異常気象もある。もちろん、地域ごとの違いもある。地形だって違えば、水も土も植物も違う。その違いがあるから、それぞれの地域ごとに異なる生活文化が育まれてきた。そして、技術も。

例えば、日本列島の殆どの地域は水に恵まれている。急峻な地形と、偏西風による雨。豊富な水が山脈の栄養を川下に運び、その水を利用した生活がある。山から溶け出してしまったミネラルは、草木や虫、それらに集まる動物たちによって補われ続ける。棚田も山麓の水田も、実に理にかなった農業技術だといえる。

もし、日本の稲作をユーラシア大陸の真ん中に再現したとしても、ほぼ間違いなく機能しないはずだ。環境が生活文化も技術も生み出していることになる。もう一つ加えるなら、人の移動だろうか。

今は片田舎に見える地域も、切り取る時代によっては大都会ということがある。移動手段が舟であった時代と、列車が中心になったあと。それから、90年代以降に加速した車社会。交通という環境によって生活文化が変化するという事例だろう。田舎だったから線路が敷かれ、街になった武蔵野台地とか。雑木林を切り開いて造成された大型ショッピング施設や住宅街。そんなもんだ。

グローバル社会になって、地球環境の変化は世界の共通課題と認識されるようになった。いま、世界中で統一の方針を掲げているのだけれど、その対応策までもが一つに統一されている状態って、ホントに大丈夫なんだろうか。それぞれの地域ごとに自然環境も社会環境も違う、というごく当たり前のことを勘案しなくて良いのだろうか。などと思っているのだけれど、ぼくが知らないだけで、そんなことは承知の上での対策なのかもしれない。

ちょっと話はそれるのだけれど、いま世界中の都市が緑化されている。屋上や外壁、河川や道などを改修して、あちこちに草木や作物が植えられている。ともすると土と生活との距離が離れてしまう大都会において、身近に土や緑が増えることは良いことだ。生物の多様性だって、田舎よりもずっと良い。良いんだけどさ。ちょっと気になる。田舎に住んでいるからこそ気になるのは、それぞれの緑や土がちゃんと連関しているのかなって。脈略もなく、それぞれが独立してしまっているように感じているんだ。

以前、テラスに設置された農園を拝見したことがある。とっても快適なんだけど、どこかに違和感があったんだ。それがなんだか分からなかったんだけど、その夜の食事中にはたと気がつくことになる。夕食は、レストランのテラス。夏の夜は暑いけれど、高層ビルを見上げながらワインを傾けるのもおしゃれな雰囲気だ。うちの店で、テラス席を設置したら大変だもんな。夏は特に虫が多くて、落ち着いて食事なんか出来ないもの。環境の違いを羨ましくも思っていた。

そう、虫がいないのだ。虫がいないということは、虫媒花はどうやって受粉するのだろう。虫を餌にする鳥はやってこないのかな。そういえば、ビルの谷間に供給される水はどこからやってきてどこへ流れていくのかな。暗渠やパイプの中には、生き物が住んでいるのだろうか。次々と浮かんで来る疑問。

生活や技術っていうのは、外で作られたものを持ち込んでも、そのままでは機能しないような気がする。環境の中から生まれたものが、たとえ拙いとしてもちゃんと機能する。大都会には大都会の環境があって、そこから生まれる技術はどう機能していくのだろう。ロンドンで生まれた技術をそのまま東京に移植してもしょうがない。それぞれの地で、それぞれの環境のなかで生み出されていくのは、その地で生活をしなくちゃわからないんだろうな。例えば、生計が立てられるほどの本気の農業を屋上で行ってみるとか。そしたら、なんとかしなくちゃって知恵が働き始めるのだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。現行のシリーズ「ミルクと生活文化」の台本を書いているんだけど、地域ごとの環境がすごく気になるんだよね。ミルクはみんな同じように見えるんだけど、全然違うものになっちゃう。面白いなあと思いながら、じゃあ今の事業ってその辺どうなっているんだろうってことも気になり始めちゃったっていう話。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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