今日のエッセイ-たろう

田舎の星空と暮らしの豊かさ。 2024年2月15日

なんとなく今日は空が暗いなあ。職場と自宅の距離はほんとうに僅かなのだけれど、消灯した夜の屋外の暗さに気がつくことが有る。天気が悪いときは、案外明るく感じる。街の灯りが反射しているからだろう。田舎とは言え、少しくらいは街に明かりがあるのだ。都会ならば、もっと明るいのだろう。

真っ暗だな。そう言えば今日は新月だったかしら。月齢を意識することはないのだけれど、晴れた日の夜が暗いときにだけ新月であることを感じる。なるほど太陰太陽暦というのは、実に合理的だ。カレンダーがなくても今日が一日であることを「体感」できる。などとどうでも良いことを考えたりもする。

足元がほとんど見えないので、少しの間立ち止まって目がなれるのを待つ。スマホを取り出してライトを照らせばよいのだけれど、なんとなくそんな気になれないのは、自宅の扉までほんの数メートルだということもあるし、せっかくの闇を壊したくないという妙な気持ちもある。

そうしたとき、気まぐれに空を見上げる。天体観測に興味があるとは言えないけれど、きれいな星空を楽しむくらいの感性は持ち合わせているつもりだ。

星空がきれいだ。と感じるのは、無数の星が見えるとき。明るい星だけじゃなくて、少し暗い星々がちゃんと見える。満天の星空という表現があるけれど、まさにその光景こそが美しいと感じられるときだ。都会で夜空を見上げても星空が美しく見えないのは、暗い星が見えないからなのだろう。

都会やその周辺でも、晴れた新月に空を見上げれば、明るい星はちゃんと見える。星座に詳しい人なら、ああアレがオリオン座だとか、こっちがこぐま座だとか言うのだろうか。その程度のことは認識できる。田舎の星空と違うのは、目立たない星々が見えないことだ。

「目立たない星々が見えるかどうか。」

これが、星空を美しいと感じるかどうかに大きく影響しているのだろうか。そう思うと、なんだか面白い。

日々の生活に無理やり引き付けて考えるなら、豊かな生活というのは目立たない星々が輝いているということだと言えるだろうか。朝起きたら笑顔でおはようと言う。家族の誰かが何かやってくれてあることに気がついて感謝の気持を持つ。どこかテーマパークなどへ出かけていったり、サプライズのあるイベントではなくても、そうした日々の生活にもちゃんと光が当たっている。

もしかしたら、どちらもちゃんと輝いて見えることが大切なんじゃないかと思える。手元にある本は誰の手によって、どんな経緯でぼくの元へとやってきたのだろう。着替えたシャツは、誰かが綿花を採取して、糸にして布にしてデザインして、あれこれ巡ってやってきた。そして、それを着て、洗って畳んでまた着る。何の変哲もないことだからこそ、暗がりに埋もれてしまいそうなことにも思える。

ちょっとだけ目を凝らして夜空を見てみる。最近は老眼が進んでいて、以前のように六等星までは見えなくなってしまった。けれども、オリオン座のボックスの中にはいくつもの小さな光があるはずだと信じて目を凝らすことは出来る。見えていないのかもしれないけれど、見えているような気がしてくるのだから不思議だ。

今日も読んでくれてありがとうございます。ぼくらの暮らしの中には、とんでもないほどの物語が詰まっていて、それを全部見ようとするのは大変なこと。満天の星空の一つ一つをじっくり見ることに等しい。だけど、それらの「存在を認識」して全体を愛でるくらいの事はできそうだ。解像度を上げるって、そういうことなんだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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