今日のエッセイ-たろう

発着地型観光じゃないスタイル。旅程型観光は成り立つのか。 2023年12月3日

旅の楽しみのひとつには、旅程があると思うんだ。若い頃の貧乏旅行なんかは、行った先のことはあんまり覚えていなくて、道中でふざけあったこととか、失敗したこととかのほうが記憶に残っている。ドライブデートをしたこともあったけれど、どこに行こうかと言いながらおしゃべりをしているうちに日が暮れてしまって、ただ車をアチコチ走らせていただけだったということもあったな。

東海道中膝栗毛。十返舎一九が描いた、弥次喜多コンビの珍道中。道中と言っているくらいだから、旅の途中の話がメインなんだよね。お伊勢参りが目的なのだけど、伊勢の話はほとんどない。なんだか、「目的達成」と「終わり」が同時に来ることに寂しさを覚えるのはぼくだけだろうか。イベントの準備期間も楽しくて、イベントも楽しかったけど、同時に準備期間が終わってしまうのが寂しいというような感情がどこかにある。不思議。

奥の細道の目的地ってどこなんだろうな。西行が訪れた歌枕を巡る旅だったらしいから、そもそも最終目的地なんてないのか。なんだか、オリエンテーリングでチェックポイントを巡るのと似ているかも知れない。行き着いた先に何かがあるわけじゃなくて、むしろ道中にこそなにかがある。もしかしたら、弟子の曽良や他の旅人との面白いエピソードがあったのかもしれないよね。書かれてないけど。

道中が楽しい旅。確かにそういう一面もある。というか、個人的に好き。

ただ、意外と再現が難しいんじゃないかと思うんだ。移動中が面白いって、どういうことだろう。どうしたら良いんだろう。

新幹線に乗る。飛行機に乗る。乗っている間は、割とみんな静かにしているような気がする。寝ていたり、スマホを見ていたり、読書していたり。おしゃべりをしている人も、もちろんいる。そこにある「旅程の楽しさ」ってなんだろう。無いのか。それとも、見落としているだけなのか。

国際線に乗ると、映画を上映してくれるのだけれど、それって日常の延長なんだよね。映画館ではなくて、家で見るオンデマンドとあまり変わらない。時々揺れたり、狭い空間に閉じ込められていたりというのが非日常で、それも旅情というものか。

カーナビとかスマホのナビを見ないで、紙の地図を使う。車なら、高速道路ではなく一般道。町ならなるべく徒歩。そんな感じにすると、けっこう景色を見るような気がする。余裕があるのか、それともよく観察しないと迷ってしまうからなのか、とにかく見る。見るし、意外と覚えている。

そう言えば、結婚する前の妻との旅行はこういうのが多かった。あんまり行き当たりばったりだと、宿泊や夕食で困ってしまうから、そこだけは事前予約。で、あとは気の向くままにドライブして、気になったところがあれば、車を止めて降りてみる。宿泊地までの間に観光地があっても、時間があったら寄ってみようかという程度だったかな。寄れなかったら、それはそれでいい。忘れていたけれど、弥次喜多っぽい旅やっていたんだな。

旅をする側は、まぁ、なんとなくやりようがありそうな気がしてきた。観光戦略とか、観光振興の視点に切り替えるとどうだろう。急にもやっとするのは、現代の主流が着地型観光だからだろうか。

街歩きスタンプラリーとかは良いよね。わりと好きかもしれない。ちょっと子供っぽいなと思っていたんだけど、やってみたら良かった。あと、最近だと謎解きゲームと街歩きを組み合わせたのも良いね。もう、ヒントを探すために町を観察し始めちゃう。関係ないところまで見て、関係ないのに行ってみたくなっちゃたりして。

今日も読んでくれてありがとうございます。パンフレットを見ながら歴史的建物を見ている日本人。建物そのものをじっくり見ている外国人。そんな対比をもって揶揄されることがある海外旅行。パンフレットを見ているのって、その建物の文脈だとか物語を知ろうとしているような気がするんだよね。それはそれで、素敵なことなんじゃないかって気がするんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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