今日のエッセイ-たろう

目的の喪失とリラックス 2023年4月2日

この時期、どこの商業施設も人が溢れている。学校が春休みの間に、子ども同士で遊びに行くこともあるだろうし、家族揃って出かけられるチャンスでもある。ぼくは土日祝日が仕事なので、平日に学校や幼稚園がないことは家族で遠出する数少ない機会だ。

休日はどんなふうに過ごしているのだろうか。やりたいことを自由にしているのだろうか。

そう言えば、サラリーマン時代に言われていたことを思い出した。平日にしっかりパフォーマンスを発揮するために、休日を上手に使わなければならない。休日に疲れ果ててしまっていては、何のために仕事を休んだのかわからないじゃないか。と。

そこかしこに、「何のために」と目的を求められる。上記の話は、ぼくなりに納得していたし、そういうものだと思っていた時期がある。なのだけれど、どうもそればかりでは息苦しいのじゃないかと思うようになったのだ。

普段の生活や、仕事では「目的」があって、それに近づくための行動をしている。そうでなければ、事業などやれない。お客様に喜んでいただくために、料理の下準備から頑張るわけだし、そのために技術を磨いたり、知見を深めたりしている。それは大切なことだと思う。けれども、生活の全てに「目的」を設定してしまうと、どうにも息苦しいと思うのである。

働くために休むのではなくて、休むことそのものを楽しむ。何にも縛られない自由を楽しむという余裕があっても良い。時間を無駄にしてしまったと思うこともあるかもしれないけれど、時間を無駄に浪費することが出来るというのもまた自由なことだろう。誰かがこんなことを言っていた。暇という言葉は自由を言い換えたものであり、自由を持て余している状態を退屈と呼ぶのではないか、と。

食事は体を作る行為そのものだから、栄養バランスなどがとても大切である。けれども、時にはそんな目的から離れて、ただただ食事そのものを楽しむということもあってよいのじゃないかと思う。そもそも、1度の外食で体調が悪くなるなどということはない。栄養バランスという意味では、日頃の食生活の方が圧倒的に大切なのだ。例えば1週間の20回程度の食事の中でバランスを取る。そのくらいの長さで調整しても良いのだ。

そういう意味では、例えば誰かと仲良くなるために食事をするという目的も消失する時間があって良い。ただ、そこにいる誰かとコミュニケーションをとって、素敵な時間を過ごす。そういう自然な心地よさを求める時間があっても良いのではないだろうか。

近年、ゆるキャンやソロキャンというのが流行っているらしいのだけれど、もしかしたら目的の喪失が目的なのかもしれない。ぼーっと火を眺めるだけの、現実からの離脱。以前のぼくならば、行く先もないドライブがそれだったかもしれない。

こうした時間が、たまたま結果として仕事のパフォーマンスを上げるということにはなるのだろう。このあたりのさじ加減がややこしい。たまたま生まれる結果を意識した瞬間に、目的の喪失を目的とするという迷路に迷い込む。

観光政策を考えていると、キーワードはリフレッシュよりもリラックスだと言われる。実際に、観光に関するデータを見ると、そのように見える。リフレッシュは、元気になるというような意味だけれど、それは観光そのものを楽しみつつも翌日の仕事を意識していることなのかもしれない。リラックスも同じような文脈で語られることもある。癒やされることで、明日から頑張れると。しかし、リラックスするためには、その時間に仕事のことなど意識しないのだろう。

言葉の定義の問題ではあるのだけれど、そのように解釈しておくと良いのではないかと思う。

さて、料亭はどうなのだろう。接待などの場合、それには確実に「目的」がつきまとう。仕事である以上はそうなのかもしれない。接待を敬遠したくなる人もいるけれど、その心境は「目的に縛られること」なのかもしれない。そんなときは、一度目的を見失ってしまうのも良いだろう。ただただ、そこに居合わせる知り合いと食事を楽しむだけ。ふうわりと、時間を浪費する仲間。なんとも贅沢じゃないか。案外、その方が良い結果になるのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。飲食店の価値を考えると、こういうのもひとつなんだろうな。前職での「接待」の定義はもっとガチガチで、技巧も求められる場だったんだけどね。そればっかりが正解じゃないんだろうと思うんだ。あの頃よりもたくさん見ているからそう感じるのかもしれないけど。目的の喪失って、ちょっと考えてみたくなるテーマだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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