今日のエッセイ-たろう

砂糖の歴史から見る世界情勢の構造。 2023年5月15日

産業革命が起きたのは18世紀後半から19世紀にかけて。舞台はイギリスだった。というのは、世界史の教科書でも語られることである。たしかに事実だけれど、どうもそれ以前から資本主義社会の原型のようなものは生まれていたように思える。

植民地におけるプランテーション。プランテーションをどのように解釈するかという問題になるのだけれど、農業と工業の融合のように見える。工業というと、それまで手作業だった仕事が機械に置き換えられたことを指し示す事が多いから、少しばかり誤解が生まれそうな気もする。農作物の工場化というのが、しっくりくる。

労働力が機械に置き換えられる前は、当然ながら人力である。ただ、それまでは家庭内手工業と呼ばれるような自らが作業を行う形であったり、職能集団を形成したギルドだったり、ともかく、職人が集団で作業をするのが一般的だったわけだ。それが、資本家は自ら労働することなく他人を集約労働に使役することでプランテーションという形態が成立したのである。しかも、奴隷という特殊な労働力を格安で導入したのだ。

こうした背景から、後に奴隷制度が廃止された後も「低賃金労働者」が資本主義社会に登場することになった。

これを後押ししたのは紛れもなくイギリスの重商主義である。商業偏重型の政策、とでも言えばよいのだろうか。これによって、イギリス経済圏全体が潤うことを目途としていたわけだ。けれども、実際に経済的に潤ったのは一部の商人である。経済の世界で勝者となったのは商人であり、その武器となったのが「砂糖」という世界商品であったのだ。

たべものラジオではこれについては多くを語らないことにした。音声バラエティで取り上げるには、少々複雑すぎるような気もしたのである。

何か、社会的に重要なポジションを占める商品を使うことで、世界経済の覇者となること。という図式が、この頃に形成されたのだが、それは帝国主義時代だけのことではないように思える。帝国主義時代には、砂糖の他にも綿花やコーヒー、茶、ゴムなどといった戦略的商品が経済の中心となった。とりわけ、石油は絶大なる威力を発揮する武器だった。

各国は、これらの世界商品をいかにして自国の利益につなげるかを考えていたのだろう。いや、もっと正確に言うと国ではないかもしれない。自社のため。これに尽きるような気もしている。

昭和に入ってしばらくした頃、世界は金本位制から脱して管理貨幣制度へと移行した。自国通貨と金の保有量が一定になる必要などなくなり、金融情報とにらめっこしながらバランスをとる社会へと移行したわけだ。ただし、実質的には金ではない商品の兌換紙幣というポジション争いがあったようにも見える。

これを抑えておくと強い立場になる、という商品がある。それと密接な関係の通貨がある。結果として、その通貨は国債通貨としての価値が高く、強いということになる。直近の例で言えば、ドルが石油の兌換紙幣のような振る舞いをしていたということになるだろうか。

経済学に明るいわけではないので、これらはあくまでも素人の考察にすぎない。ただ、砂糖以降の世界商品と経済の中心の動きを追いかけていくと、どうもその様に見えてしまうのだ。

地球規模で石油の採掘量が減少している現代。採掘するための投資額と、採掘量と利益を考えるとあまり儲からないのが石油事業ということになった。これは、コロナ禍やロシアウクライナ戦争の影響とは関係なく、これらの事件以前から起きていた事象だ。だからこそ、世界は次の経済的覇権国家をにらみながら、石油の次の世界商品を探しているようにも感じられるのだ。

石油の代わりになる資源ばかりが重要な世界商品となるとは限らない。というか、砂糖や石油のように、それ単体が圧倒的な優位性を持つ商品が、次の世界経済の重要商品となるとは限らない。複数ということもあるかもしれない。

その様に見ていくと、なぜか国家間で売買が可能になっている「温室ガス排出量」という国際的な取り決めは、それ自体が世界商品のようだ。優秀な国ほど、その分経済的に優位になれる。ということになるだろう。同じ様に、食料問題も考えることができそうだ。代替タンパクやバーチャルウォーター、種苗、肥料などは十分に世界商品化する可能性がある。可能性があるというレベルの話ではないかもしれない。既に、麦も米もトウモロコシも大豆も投機の対象なのである。このままのペースでは、近い将来穀物が足りないという状況がやってくる。つまり、穀物生産が得意な地域が覇権国家への近道になり得る。そうなると、土地も資源も乏しい日本は苦しい立場にならざるをえないだろう。

人類が一致団結した理想の未来というのは、物語の中で語られている。そういう世界が実現すれば良いとは思うけれど、まだ当分の間は実現しそうにない。国や企業という団体が、互いに利益を争う関係は続きそうだ。たまたま、そういう自然環境の土地である。というだけのことなのだけれど、どうもそれが国際問題の主原因になるのが今の社会。

今日も読んでくれてありがとうございます。ざっくり構造だけを抜き出して見ると、何世紀もの間ずっと同じことをやってきたようにも見えるんだよね。もちろん、全てがイコールではないのだけど。螺旋階段みたいになっているんだろうな。上から見ると同じところを回っているようにみえるけれど、少しずつ階段を登っている、みたいなね。

タグ

考察 (300) 思考 (226) 食文化 (222) 学び (169) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (105) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 言葉 (9) 循環 (8) 価値観 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) エンターテイメント (4) 自由 (4) 味覚 (4) 言語 (4) 盛り付け (4) ポッドキャスト (4) 食のパーソナライゼーション (4) 食糧問題 (4) 文化財 (4) 学習 (4) バランス (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) イノベーション (4) 伝承と変遷 (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) チームワーク (3) 感情 (3) 作法 (3) おいしさ (3) 研究 (3) 行政 (3) 話し方 (3) 情報 (3) 温暖化 (3) セールス (3) マナー (3) 効率化 (3) トーク (3) (3) 民主化 (3) 会話 (3) 産業革命 (3) 魔改造 (3) 自然 (3) チーム (3) 修行 (3) メディア (3) 民俗学 (3) AI (3) 感覚 (3) 変遷 (3) 慣習 (3) エンタメ (3) ごみ問題 (3) 食品衛生 (3) 変化の時代 (3) 和食 (3) 栄養 (3) 認知 (3) 人文知 (3) プレゼンテーション (3) アート (3) 味噌汁 (3) ルール (3) 代替肉 (3) パーソナライゼーション (3) (3) ハレとケ (3) 健康 (3) テクノロジー (3) 身体性 (3) 外食産業 (3) ビジネスモデル (2) メタ認知 (2) 料亭 (2) 工夫 (2) (2) フレームワーク (2) 婚礼 (2) 誕生前夜 (2) 俯瞰 (2) 夏休み (2) 水資源 (2) 明治維新 (2) (2) 山林 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 科学 (2) 読書 (2) 共感 (2) 外食 (2) キュレーション (2) 人類学 (2) SKS (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 思い出 (2) 接待 (2) AI (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) 伝え方 (2) 旅行 (2) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) 心理 (2) 才能 (2) 農業 (2) 身体知 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 合意形成 (2) 儀礼 (2) (2) ビジネススキル (2) ロングテールニーズ (2) 気候 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 食料流通 (2) 食材 (2) 流通 (2) 食品ロス (2) フードロス (2) 事業 (2) 習慣化 (2) 産業構造 (2) アイデンティティ (2) 文化伝承 (2) サスティナブル (2) 食料保存 (2) 社会変化 (2) 思考実験 (2) 五感 (2) SF (2) 報徳 (2) 地域 (2) ガラパゴス化 (2) 郷土 (2) 発想 (2) ビジョン (2) オフ会 (2) 産業 (2) 物価 (2) 常識 (2) 行動 (2) 電気 (2) 日本酒 (1) 補助金 (1) 食のタブー (1) 幸福感 (1) 江戸 (1) 哲学 (1) SDG's (1) SDGs (1) 弁当 (1) パラダイムシフト (1) 季節感 (1) 行事食 (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

-今日のエッセイ-たろう
-, , , ,