今日のエッセイ-たろう

私的な思考「文化財とはなにか」その活用。2022年9月18日

文化財とは一体なんだろうか。いやね。文化財の保護活用について検討する動きが全国的にあるらしくてさ。で、掛川市も振興計画を作成するのだけれど、その検討委員会に委員として参加させてもらっているのだ。文化財と聞くと、国指定の重要文化財だとか、県や市が指定する文化財を思い浮かべる。そのどれもが、歴史的な価値を感じられるようなもの。という感覚なのだけど、ちゃんと言語化しようとすると難しいんだよなあ。

文化庁の定義は「長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財産」ということになっている。つまり曖昧。歴史があることが前提であるということが読み取れるくらいで、けっこう主観的なんだよね。

文化財というくらいだから、文化に重点が置かれているのかな。建造物も美術も、文化を伝承するアーカイブ。そのモノ自体の価値もあるけれど、そのモノに付随する物語や背景を象徴する存在ってことで良いのだろうか。

例えば、コンピューター上にある圧縮ファイルみたいなイメージ。建造物に触れることで、過去の物語を解凍する。この例えだと、物語のデータはモノ自体には薄いかもね。いろんなモノが刻まれているかもしれないけれど、どちらかというと物語自体は脳内再生。ということは、教養があってはじめて想起される。うーん。教養の中にある物語を起動させるための装置。まぁ、これも一側面かもね。

あとは、実際のモノに触れることで物語が強化されるってことはあるよね。お寺の柱に触れて、数百年前に同じ様に柱に手に触れた人物が居たことを感じる。目の前にある座敷に座って何かを考えたり相談したり指示を出したりしていたんだなぁ、ということを感じる。

文字情報では足りない視覚情報を補足するのもあるね。一般的にはこちらのほうがイメージしやすい文化財の存在意義かな。

他にもあるかもしれないけれど、一旦これらを文化財の価値だと仮定してみよう。だとすると、文化財の活用というのは、これらの体験を加速させるための工夫の事を指すだろう。

前者であれば、時代背景や人物などの紹介が必要になる。元々情報をもっている人なら良いけれど、そうでない方のための展示だ。今のところ、ほとんどの展示は無機質な情報が多いようなきがするんだよね。なんというか、教科書的。事実が並んでいる。文化っていうのは、事実じゃなくて物語で動き出すところで感じるものだと思うんだよね。だったら、もっとストーリーテリングを中心においても良いんじゃないかな。それこそ、歴史上の人物名がわからなくても楽しめるような。徳川家康というビッグネームを主役に置いた物語だとしても、その主役の名前を架空の人物に置き換えても楽しめるくらいに物語重視。

極端に思えるかもしれないけれど、そのくら振り切っても良いんじゃないかな。歴史が苦手な人にとっては、沢山登場する人物名や年号に嫌悪感を持ちやすい。それに、外国人にとっては、徳川家康だって知っている人がいたら驚くかもってくらいの知名度だもの。滞在期間の限られた外国人に名前を覚えさせるのってナンセンスじゃない?以前、海外旅行へ行った時に寺院などでヒストリーを読んだのだけど、王様の名前なんて全く覚えていない。物語の概略だけだもの。それで十分遺跡を楽しむことが出来るわけだ。

あとは、体験かな。よく、立入禁止の札が立っているところがあるよね。そりゃ、やたらと襖や柱に触られてしまうと劣化するからね。保護という観点からすれば、しょうがないかなとは思うんだ。だけどさ。美しい書院造りの部屋があって、そこにドラマがあったのなら、その空間に座布団を並べて座ってみるというくらいの体験はしたいんだよなあ。というのは個人的な希望なんだけども。

京都のお寺で、庭が有名なところがたくさんある。観覧の順路は外縁だ。庭に面した縁側を歩いて進んでいくんだね。向かって左側に見事な庭が広がっていて、右側には障子を開け放った座敷がある。でね。みんなドンドン歩いていくんだけれど、それがもったいないと思うんだよ。一人で訪問したときには、30分くらい縁側に座っていたんだ。沢山の人達がぼくの後ろを通り過ぎていった。変なやつだと思っただろうね。

あのさ。庭って、見る人を想定して設計されているんだよね。見る人が誰かって言うと、当然座敷の良い席に座すはずの貴人なのだと思うのよ。そしたら、その人の目線でみた時に最も美しく見えるように作られているわけでしょう。座敷が立入禁止なのだから、縁側に腰掛ける。身長差を考えたら、正座じゃなくて腰掛けるくらいの高さなんじゃないかと思ってさ。

30分後には、ぼくの横に数人の人が座っていた。質問されたから、上記のようなことを答えたんだ。みんなしばらくの間は、ぼーっと眺めていたよ。話す言葉もポツリポツリ。さっきまであれほど喋りながら歩いていたのにね。

今日も読んでくれてありがとうございます。文化体験って、そういうことなんだと思うんだよなあ。なんというか、時空を越えて往時の文化に心を遊ばせるって感覚。リアルと脳内ヴァーチャルをミックスして体験する。ARのようなものを越えて、風情を感じる。そういう場所にするだけなら、1箇所につき数千万円かかるような事業じゃなくても出来ると思うんだけどな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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