今日のエッセイ-たろう

自転車に乗ってどこかへ行くって、楽しい。 2023年4月24日

子供の頃の楽しみの一つは、自転車にのることだった。自転車に乗ってどこかに行くことが楽しいのではなくて、自転車にのることそのものが楽しい。いや、どこかに行くことも楽しかったし、乗ることも楽しかったし、走行中の雰囲気も好きだった、というのが正確かもしれない。

小学生の頃は、なんだかわからないけれど公園だとか広場で自転車に乗っていた。石を並べて、勝手にS字カーブをやってみたり、一本橋を渡るようなことをやってみたりした。中学生になると、ウィリー走行や急ブレーキをかけて後輪を滑らせるようなことをやりだした。

よくよく考えると、不思議なことだ。移動することを目的に作られたモノなのに、移動することよりも乗ることが目的になってしまっている。技を練習したのは、乗ることが楽しかったということの延長上にあっただけで、特別技を極めたいということでもなかったような気がしている。

サイクリングにツーリング、ドライブと乗り物で出かけることを楽しむのは、ぼくだけじゃないようだ。とりあえず「乗り物に乗って出かける」という行為を「楽しみ」として捉えている人は、少なくないだろう。少々問題はあるけれど、夜中に爆音で走り抜ける暴走族のなかにも、そういう人がいるのかもしれない。

目的と手段が逆転している。両親なんかは、そう言う。両親ともにあまり車にこだわりはなくて、とにかく快適に移動が出来ればそれで良い。一時はそこそこの高級車に乗っていたこともあるけれど、それだって快適性と安全性を求めた結果。あとは、見栄。移動に関しては、実用主義なのだ。

ところが、ぼくなんかはそうじゃない。移動自体が楽しい。同じ場所にたどり着くにしても、どのような移動手段で行ったかが、けっこう大切だと感じている。もちろん、仕事の都合などで移動手段にこだわりを発揮している場合じゃないっていうときもある。むしろ、たくさんある。

だからこそ、移動手段に選択の自由があるときは、移動を楽しみたいと思うのだ。

不思議なことに、乗り物ではなくても良いのかもしれないと気が付いた。そういえば、歩くことも好きだ。なんだかわからないけれど、ひと駅くらい歩くのは苦にならない。都会でいうひと駅はもちろんだけれど、田舎のひと駅も平気で歩いてしまう。軽く2時間はかかるような場合もあるのだけれど、時間が許せばフラフラと周りの景色を眺めながら歩くことも楽しい。

何処かへ行くということが、そもそも楽しい。そのうえで、移動中も楽しい。つまり、旅が好きということなのだろうか。そういえば、自転車で遠くへ出掛けた時のことで、思い出すことがある。1日で100km以上の移動をするのだけれど、例えば信号待ちでふと足元を見下ろすと、車や電車の移動であれば絶対に足を置くことのなかっただろう地面が見える。その瞬間だけは、ぼくの日常ではない世界の、だれかの日常の一部に直接触れている。

時間のかかる移動。徒歩や自転車は、周囲の景色が流れていかない。景色の中に自分がいるような感覚がある。しかも、移動そのものを「自分の力」で行っている感覚が、それを加速させているかもしれない。もしかしたら、ぼくは世界を感じたいだけなのかもしれない。知識ではなく、体で感じたい。そういう衝動を持った生き物として生まれてきたのかもしれない。

電動補助付き自転車が登場してから、かれこれ20年以上の月日が流れた。当初から、ぼくには意味がわからなかった。楽をしたいのであればバイクや車に乗れば良い。自転車の楽しみは、自分の力で移動することにあると思っていたのだ。けれども、違う見方をする必要があるかもしれない。

移動を楽しむ時、ぼくは走らない。ランニングだって嫌いではないのだけれど、しんどいのだ。何がしんどいって、体力の問題ももちろんあるのだけれど、荷物が邪魔になるし、服装も制限されてしまう。移動先で町中を歩いたりレストランに入ったりもしたい。ちょっとおしゃれなカフェでノマドっぽいこともしたい。だから、荷物はあるし服装だってオシャレしたい。

これと同じことが、e-bikeにも起きているのかもしれない。ロードバイクだと、それなりにスポーティな服装になってしまうかもしれない。ぼくはジーンズだけど。坂道は汗をかくし、体力も消耗する。だから、e-bikeというものが市民権を得たのかもしれない。

体を使って移動することで世界を感じたい。けれども、それに特化しすぎると、日常との乖離が激しくなる。その両方をとると、e-bikeということなのだろうか。そうだとしたら、わかるような気もする。

今日も読んでくれてありがとうございます。移動することが楽しいというのは、本能に刻まれているのかな。もしかしたら、あの山の向こうにもっと良い食べ物があるかもしれない。狩猟採集の時代に、人類はとんでもない時間をかけてとんでもない距離を移動した。大航海時代よりも遥か前にはオーストラリアにもニュージーランドにも人は渡った。狩猟採集の時代に、太平洋を渡ったってスゴイよね。どこかに、旅の遺伝子みたいなものが組み込まれているんじゃないだろうか。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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