今日のエッセイ-たろう

AI産業革命は、ぼくらの生活をどう変えていくのか。 2024年10月4日②

昨日の続きです。未読の方は前回からお読みください。じゃないと、たぶん話が繋がらないから。

自由でいいじゃんと思う人もいるだろうけれど、自由というのは、とても負荷がかかるものなのだ。何食べたい?と聞かれて、なんでも良いと言われると困るでしょう。選択肢を狭めてもらったほうが、考えるのが楽。この中から選んでと言われれば、選びやすいし、しっくり来るものがなくても選択肢を参照しながら思考を展開できる。ただ、仮に選択肢を提示されていたとしても、数百数千の選択肢を提示されたら、もはや自由に近いほどに自己規定する思考負荷は高いだろう。

私は何者だ。何がしたいのだ。どう生きたいのだ。どんな生き様が自分にとって幸せなのか。自分の幸福と他人の幸福のバランスを取るにはどうすればよいのだ。

昔も今もこの問いが重要であることには変わらない。だけど、だいたいお手本になるようなものがあって、哲学や宗教がガイドを担ってくれていた。シンプルに「どうしたい?」の数が増えすぎて、万人向けの思想では対応しきれないのだろう。ガイドになってくれるのは、抽象的な概念であって、実生活では自分なりの哲学を紡ぎ出すより仕方がない。そうやって「楽しい」を実現していって、それが社会における評価軸になるかもしれない。

マルクスの言う資本家、物言う株主のために働く株主資本主義。こういうのは自然減するのだろうな。資本主義は「楽しい」とか「幸せ」のために使われるようになる。このあたりは、そうなったら良いなという意味であえて書いているところもあるけれど、可能性はあるでしょう。放っておいたってみんなが生きていけるんだし、楽しいことをやっている人が評価されるんだったら、暇な金持ちは「楽しいを提供してくれる人」にお金を払うと思うんだ。いわゆるエンタメもその対象だろうし、楽しいと思える事業も投資の対象になる。へぇ、そんなことやるの?面白そうじゃん。ちょっとカンパしようか。リターンはあったほうが良いけど、なくても「楽しみ」が報酬になるから。みたいな感覚。

元々あるけど、近年この流れが強くなっている気がする。推し活ってそういうことでしょう。

むろん、良いことばかりじゃないだろう。シンプルに、新たな格差とか序列みたいなものが現出するのじゃないかと思う。ホモ・サピエンスには完全な平等は出来ない、たぶん。なぜか囲い込みをしてしまう傾向がある動物なのだ。それはいいの。だからこそ、先述のように投資が働くわけだから。ただ囲い込みによる格差が拡大した時が怖いんだ。だいたい、争いっていうのは圧倒的に追い込まれた弱者が起こすものだ。窮鼠猫を噛む。

貧困層が増えるとか、格差が広がると犯罪発生件数が増える。これはもう周知の事実だ。生きるために仕方がないという理由もあるけれど、金持ちに対する理不尽な恨みが理由ということもある。直接虐げていなくても、かりに優しい言葉を欠けたつもりでいても、それは立場によっては恨みの元凶になっていく。アメリカでベビーシッターの犯罪が増えるのは、雇う人が金持ちでベビーシッターがしばしば貧困層に近いからだという。「楽しい人」から外れた人が、やはり現代でいう貧困層になると思えば、構造的には何も変わらない。

追い詰めたら駄目なんだ。だいたい戦争だって同じ理由で、半ば衝動的に弱者が挑むケースは多いもの。だから「誰も取りこぼさない社会」にしようって言われているのだ。弱者は努力しなかったお前が悪いという新自由主義に傾斜しすぎると、情勢不安が高まるという理屈。

そういうことは結構昔からわかっている。だから、いろんな国や宗教などの枠組みの中にセーフティーネットがあるのだ。日本のそれが正しく機能しているかというと、微妙だけど。安全保障という意味で救済は必要である。これは倫理観とか主張ではなくて、歴史的に繰り返されてきた事象で、長い時間をかけて対応してきたという話

「動力と合理化を使った、人間の労働を必要としない生産」が一定レベルで成立した社会で、セーフティーネットはリデザインされる必要があるだろう。今までと産業構造が違うのだから、いろいろと変更しなくちゃいけない。それは近代産業革命でも起きたことだ。

となると最低限の生活は、もう全員保証したらいいんじゃないのかな。働かざる者食うべからずじゃなくて、働かなくても食って良しっていう世界。つまりベーシックインカム。自分が頑張って手に入れたものを他人に搾取されるのが気に食わないっていう人もいるだろうけれど、そもそも生産物が勝手に生み出されるのだから腹も立たないでしょう。自分だってベーシックインカムをもらうわけだし楽しみを追求したり、提供することで手に入れる富はすべて余剰資産。あったら良いけどなくても困らないというお金になる。

そんなことしたら、みんな怠けて働かなくなってしまうではないか。確かにそうだけど、怠けて働かなくなれば良いという発想に切り替えたら良いよ。だいたい、数百年かけてそういう社会を作ろうとして来たんだから。そのための技術発展だったはずなのに、目的と手段が入れ替わっているのじゃないかな。近代初期以降の書籍を読んでいると、そんなふうに見える。

途中からSFみたいな話に展開してきたけれど、それでも比較的起こり得る未来ではあるのだと思っている。というか、今回の試みは「今起きている産業革命」を理解する補助線なのだ。多少なりとも、影響が及んだ後の世界を考えなければ「革命」が見えてこない。そもそも変革なんてものは、「変革があった」と未来から見て規定するものだから。まぁ、こういう話になるというわけだ。なんとなく、ぼくなりには整理できそうな気はしているのだけれど、どうだろう。

今日も読んでいただきありがとうございます。あぁ、数千年単位のサイクルで永劫回帰を感じる。2500年ぶりに、アテネの様な社会が到来しようとしているようでいて、似て非なる社会。同じ轍を踏まないようにだけはしたいよね。あの時代のギリシアの食べ物って、そうしても美味しそうには見えないんだよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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