今日のエッセイ-たろう

包丁で切る。こんなイメージが出来ると上手になる。 2024年7月29日

料理上手になりたい。という人の中に、包丁を上手に扱えるようになりたいという人がいる。うまく扱えるようになると、より薄く細かく切り分けることが出来るようになるし、食材のカタチを崩さずに切ることが出来るようになる。たぶん、一番面倒な素材のタイプは、外側と内側とで硬さや粘度が異なる場合、かな。あと、よれたりして変形するのも面倒。

包丁で切るっていう現象を大雑把に分類すると、圧力をかける、左右に引き裂くになるのかな。ズレるとかねじれるっていう切断パターンは想像しにくい。ハサミとか手でねじるとズレによる切断が発生しそうだけどね。

左右に引き裂く。こっちのほうがイメージとしてわかりやすいだろうか。例えば大根とか人参を包丁で切ろうとすると、途中からバリバリと音がして割れてしまうことがある。というか、いつもそうだという人も多いんじゃないかな。大根は食材が硬いからね。包丁の厚さで割れてしまうわけだ。大根を出刃包丁みたいな分厚い包丁で切ろうとすると、切るというより割ると言ったほうが良いくらい。

で、包丁の厚さを薄くしていって、食材の硬さを柔らかいものへ変更していって、と段階的に入れ替えてみる。そうすると、引き裂かれていることは引き裂かれているのだけれど、裂け目と包丁との距離が短くなっていく。それで、切れているように見えるという感じかな。

イメージしにくいのは圧力をかけると切れるということ。細かな物理法則の話をするには、ぼくの知識が追いつかないからなあ。なんとなくイメージとして知っておくと良いのは、食材はめちゃくちゃ小さな粒子の集まりってこと、一点に大きなエネルギーをかけると接点から粒子の結合が壊れて分離するってこと。

エネルギーをかける方法はふたつ。ひとつは圧力でもうひとつは摩擦。まぁ、熱っていうのもあるけれど、それは無視しておこう。摩擦熱を考慮しだすと煩雑だし、包丁を加熱すると包丁も食材も変性してしまうから。切れ味とは関係ないんだけど。包丁を炎で炙って使う人いるよね。あれ、やめたほうが良いって。せっかく包丁を作るときに焼入れして頑丈に作ってくれているのに、それが台無しになっちゃうからね。

エネルギーをかけると物体の分子間あるいは原子間の結合が切れる。食材の場合は原子間ということはないだろうから、分子同士の結合が切れるという感じかな。包丁の刃は、全体の大きさに対してめちゃくちゃ薄くなっている。だから、包丁の重さだけでもかなり圧力がかかることになる。で、その状態から包丁をスライドすると、食材の分子が包丁の原子に引きずられて動くわけだ。これで削られていく。それに、摩擦でエネルギーがかかるから分子間の結合がゆるくなって、より切れやすくなるって寸法だ。

包丁を上手に使ってキレイに切るというのは、後者のほう。断面もキレイだしね。

ここからテクニックの話。なるべく食材に余計な圧力をかけずに切るイメージで、すばやくすっとスライドさせる。せいぜい包丁自体の重さで圧がかかるくらい。場合によっては、少し持ち上げるくらいのイメージだ。そうすると、食材がよれにくい。

練習するときには、蒟蒻とかを使うのが良いっていうことを聞くのだけれど、ぼくはネギが良いんじゃないかと思っている。薬味のネギを小口に切る時って、何本も重ねてまな板の上に置くでしょう。で、ネギを潰さないようにすると、圧をかけられない。だから、束の上のほうは、空中に浮かせてあるくらいの感覚だ。実際に、細ネギを一本だけ手に持ってまな板におかずに中空で切ろうとしてみるとわかる。なるべく圧を欠けずにスライドするエネルギーだけで切るようにする。これでまっすぐキレイに切れるようになったら、もう一人前だ。あとは、刺し身を切る時も鱧の骨切りをするときも同じイメージである。

今日も読んでいただきありがとうございます。スライドが重要なポイントになる。そういう食材と向き合うために長い包丁があるんだよね。圧をかけないぶんだけスライドの長さが必要になるから。これ、ある程度出来るようになるとキャベツの千切りがびっくりするくらいふわふわになるんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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