今日のエッセイ-たろう

ずっとユラユラしている方が心地よい。 2024年7月28日

大手コンビニチェーン店のお惣菜とかお弁当って、美味しくなったよね。一昔前と比べてもかなり進展している。冷凍食品もそう。一時期は、美味しくないものの象徴として冷凍食品という単語が使われたこともあったけど、もうそんなことは言えなくなった。開発した人たちの不断の努力には頭が下がる。

近年では、食品添加物の使用量も減少傾向らしい。防腐剤とか合成着色料などは、必要最低限に抑えようという意識が強いと聞く。加工場の衛生環境もスゴイことになっているしね。大手食品メーカーが提供するパンが、家庭で作られるものよりカビにくいのは、防腐剤のおかげではなく無菌空間での調理によるものだ。菌がいない状態で密封してしまえば増殖することもない、というのはパスツールの実験で知られているけれど、これを実現するのは高い技術と、それを整備できる資本力のたまものなのだろう。

一方で、こんな声も聞く。美味しいのは間違いないけど、なんだか飽きちゃうんだよね。じゃあ、時々美味しくないものを食べたら良いのかというと、そういうことでもない。なるべくなら美味しいものを食べたいのだ。毎日ずっと美味しいのなら良いじゃないか。

もしかしたら、人間はある程度のファジーさが必要なのかもしれない。同じ袋に入ったいくつかのジャガイモも、微細だけれど味に個体差がある。保存している間に少しずつ味が変わっていく。料理の味付けも時々によって一定じゃないことのほうが普通だ。それに、それらを食べるぼくらの身体の状態も変化し続けていて、感じ方も変わっていく。つまり、一見同じ様に見える物事も、量子のごとく常にその存在が揺れていて、揺れていることを認知して続けている。この状態が、ぼくらにとっての平常なのかもしれない。

常に揺れていることが当たり前の世界において、全く揺れ動かないものは異物のように見えるのだろう。それが良いかどうかは関係なく、違和感を覚える。食べ物ならば、美味しいか不味いかなどの価値とは無関係に、違和感がある。ただの妄想だけれど、こんな解釈が成り立つかもしれないと思う。

ここ数年のAIの進歩は目覚ましい。動画コンテンツなどで時折聞く合成音声は、それが人間の声じゃないことがわかる程度。ChatGPTみたいなものでも、文章はちゃんとしているけれど、ちゃんとしすぎていて人間らしさが感じられない。だけど、最近では人間らしさを獲得し始めていて、ちょっと言い淀んだり、わざと曖昧に答えたりすることも出来るらしい。人間からみてAIだとわからないほどの状態は、人間が持つゆらぎを再現するようになったときなのだろうか。

例えば、3Dフードプリンターを使えば、一流の職人が握った寿司を完璧に再現することが出来る。そして、全く同じ状態のものをいくつも生み出すことが出来る。これに揺らぎを加えられるようになれば、眼の前に現れた2つのマグロの握り寿司は、それぞれが微妙な違いをもつようになるかもしれない。

完璧なコピーよりも、ゆらぎを持ったコピー。そこに新たな価値が生まれ、また更に魔改造されていく時代がやってくる。とそんな想像をするわけだけれど、そう遠くない未来の出来事なのだろう。人類がそこに価値を見い出せば、ではあるけれど。

今日も読んでいただきありがとうございます。消費者が人間。という前提にたつと、人間らしさというか、人間臭さのような部分は必要になりそうだなって思うのよ。ちょっと欠けているほうがむしろ自然に感じられる、みたいなね。茶の湯とか禅の世界観に近いかもね。まぁ、完全コピーが溢れる世界が当たり前になったら、揺らぎがない方が心地よいと感じる世界がやってくるのかもしれないけど。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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