今日のエッセイ-たろう

食文化の文脈を経済と絡めて眺めてみる。2022年10月21日

食文化の背景を探る過程で、ちょこちょこと経済の仕組みを勉強している。スシのシリーズでは、江戸時代を中心とした貨幣経済の乱高下を紐解いてみた。なんでそこに興味を持ったかというと、特にこれといった理由はないんだけどね。

あまりにもスシが変化しすぎていて、その力学はどこからやってくるんだろうなっていう素朴な疑問。よくよく読んでみると、町人社会が発達していく過程とリンクしているような気がしたんだ。ハヤズシもオシズシもマキズシも、そしてニギリズシもみんな、町人が生み出したものだからね。それまでの食文化の中心は権力者だったはず。だから、実質的な権力の重心が町人の側にスライドしているんじゃないかって、そんなことをぼんやり思いついたのね。当時の社会構造を考えると、町人が政治的な権力を持っていたわけないから、じゃあ経済だろうと。大商人が藩にお金を貸していたくらいだから、そんなこともあるのかもしれないな。くらいの直感で本を読み始めたんだ。

おかげさまで、スシのシリーズは人気の高い回になった。個人的にも気に入っている。

さて、複雑なはずの経済を歴史的視点で読み解いていくといろいろと面白いことに気がつく。現代の経済の仕組みを全て学ぼうと思ったらさ、結構煩雑じゃない。だけど、原始社会だとそうでもないんだよね。貨幣経済が生まれる前だって、ちゃんと経済活動をしていたわけでしょう。平安時代以前がそうだよね。だけど、そこまで戻っちゃうとぼくの感覚が届かない。なんでかって、ぼくらが貨幣経済ありきの社会に生まれているから。違う概念を感覚的に捉えに行くのはなかなか難しい。そこで、ちょうどいいのが平安時代末期から室町時代の500年間くらい。それこそ、日本で貨幣経済が動き始めた初期の経済だからね。なんだろうな。現在の電気自動車の仕組みを学ぶのは難しいけれど、初期の自動車の仕組みのほうがシンプルで基礎を学ぶのには向いている。とかそんな感覚かな。

でね。ふと思ったんだ。お金ってなんだろうってね。単純な話でさ。お金って、代替品なんだよね。贈与論でお馴染みだけど、信用を覚えておいて貸し借りの感覚でやり取りするのって煩雑じゃん。しかも、信用を構築するのってそれなりに関係を構築した間柄でないと無理がある。だから、その場で決済しちゃえば貸し借りを忘れられるし、それに他人でも良い。そんな仕組みなんだよね。

じゃあ、そのお金ってどうやって作られているのか。初期の日本では宋銭をメインで使用していた。鎌倉時代も室町時代もそうだよね。自国通貨じゃないものを自国通貨の代わりとして使っていたわけだ。そしたら、常に宋銭を仕入れていかなくちゃいけない。日明貿易をやめたのは足利義持だったかな。そしたら。貨幣が足りなくなった。モノの生産力は右肩上がりなのに、貨幣の絶対量が足りなくなる。当然デフレが発生する。

一方その頃の明王朝では、紙幣を発行しまくっていた。そしたらハイパーインフレーションが発生してしまって、紙幣の価値が暴落しちゃったっていうんだよ。実は経済が良くなっているからでもあるんだけどね。それはちょっと置いておこう。

日本では江戸時代になって、やっとまともに国産貨幣が流通し始める。初めての貨幣はもっと前だけど、たぶんちゃんと貨幣経済として機能した貨幣は江戸時代に発酵されたものが最初じゃないかな。で、このお金を作り出しているのが国家なんだよ。

まず最初に国家がお金を「生産」する。文字通り生み出すわけだ。で、それを使って公共事業何かを実施するんだよね。そうすると、民間市場でもそのお金が流通し始める。徳川家光はとんでもないレベルでお金を使いまくったんだけど、そのおかげで貨幣が市場に出回るようになったとも言える。拍車をかけたのは明暦の大火とか、大飢饉だろうね。その都度幕府が発行したお金が市場に出回るわけだから。

江戸時代はモノの生産量が右肩上がりの時代。だから、貨幣を増産し続けないとデフレになってしまう。そういう意味で改鋳を繰り返してきたわけだ。ただ、こういった時代の貨幣は絶対量に上限があった。金本位制だから、金の絶対量を超えることはない。金に混ぜものをして薄めた小判を発行したこともあるけれど、それでも一定の品質を担保していたわけだから、無限にお金を作ることは出来ない。

さて、現代はどうか。理論上は際限なくお金を生産することが出来る。仮にお金を作りまくって、ガンガンお金を公共事業で吐き出してしまうとどうなるか。単純に考えれば、市場に出回るお金の量が増えすぎてしまう。この調整するのって、大変だよなあ。どうするんだろうと思っていたら。だから、お金を回収する仕組みとして税金が存在するんだっていう人もいてさ。市場に増えすぎたお金を消すための税金だと?そういう解釈も可能なのか。もうわからなくなってきたな。

ただ、この解釈で捉えると、累進課税の仕組みはとても理にかなっているように見える。おっきなプールに水を注ぎ続けたらあふれるしか無い。その水を吸い上げる仕組みを持っておけば、うまいこと循環する。有るところから回収しないと、ちゃんと循環しないからね。そういうのが、元々の貨幣経済の仕組みなのかもしれないな。

今日も読んでくれてありがとうございます。少し前に金銭的な格差社会のことを書いたのだけれど、そこに溜まっている水をあちこちに振り分けると循環する。国家、いや正確には中央銀行なんだろうけれど、それって循環器としての役割もあるんだろう。あれ?となると、財源はどうするんだっていう国会での話はどうなるんだろう。作ればいいじゃんって話よね。増えたら吸収する。歴史と文化の探究に経済の視点を加えると、おもしろいな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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